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9期生 近藤 哲史

損害保険業における規制緩和とその経済効果

 平成8年4月に保険業法が改正されたのを皮切りに、強い規制の下に置かれていた日本損害保険業界は規制緩和の時代を迎えた。同時に国内外からの新規参入、大手企業の水平合併が相次ぎ、業界にはまさに再編の波が押し寄せている。しかし、規制緩和がどのような成果をもたらしたのかという実証的な研究はまだほとんどされていない。また、相次いだ大型水平合併の効果についても同様に十分な研究がなされていない。本研究は企業側の視点に着目し、規制緩和及び水平合併が企業の利潤率にどのような影響を与えたのかを実証的な手法を用いて分析し明らかにするものである。
分析1では、企業の利潤率に対して規制緩和は負の、水平合併は正の効果があるという仮説を基にモデルを構築し、規制緩和前から日本法人として損害保険業を営業していた企業を対象にパネルデータ分析を行った。対象期間は平成2年度から平成17年度である。結果として、利潤率に対して規制緩和及び水平合併は共に負の効果を持つことが明らかになった。
 分析2では、分析1のモデルで用いた各種説明変数の利潤率に対する効果が、規制緩和前と規制緩和後でどのように変化したか、分析㈰の分析方法を若干修正して、同じくパネルデータ分析を行った。対象期間は分析㈰と同様である。結果として、規制緩和後においては規模の経済性は確認されず、自由化された新商品開発・発売も利潤率に有意な影響を与えていないことが明らかになった。
 結論は以下の通りである。平成8年度に始まる規制緩和は、企業の利潤率に負の影響をもたらすなど、確実に市場構造に変化を与えているが、水平合併は短期的には利潤率に対して負の影響をもたらしており、今後、合併のメリット・デメリットを再検討する必要がある。ただし、合併の長期的な効果はまだ現れていない可能性があり、更なる研究が必要である。また、規制緩和後において規模の経済性が確認さらなかったことから、大手企業にも一層の経営努力が求められていると考えられる。

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