9期生 竹内 良太
日本企業の多角化戦略とパフォーマンス
企業が成長していく上で、事業分野を拡大して多角的に事業展開することは珍しくなく、実際に大企業の多くは、1つの事業領域にとどまらず複数の事業を営んでいることが多い。
日本においても、戦後の高度経済成長の中、企業の成長と共に多角化が進展してきた。しかし、バブル崩壊を迎え、多角化企業の経営効率の悪さが指摘されるようになると、「選択と集中」と言われる反多角化の流れが生まれ、非効率な事業を縮小・撤退して中核事業に経営資源を集中させる動きが強まった。
本稿は、バブル崩壊後に行われた「選択と集中」の戦略が、実際に企業のパフォーマンスを改善させているかどうかについて検証している。対象企業は、食品業に分類される上場企業のうち、1996年時点で多角化が進んでいる企業とした。
これらの企業について、1996年から3年ごとのデータを3期間分収集し(1996~1999,1999~2002,2002~2005)、期中における多角化水準の変化と利益率の変化の相関を分析した。被説明変数に利益率の変化、説明変数に多角化水準の変化を用い、負債比率などをコントロールした上で最小二乗法により回帰分析を行った。
この分析によって、本研究の対象企業・対象期間においては、経営資源の集中化(多角化の縮小)が、経営パフォーマンスを改善させていることが確認された。つまり、バブル期までに過剰な多角化が行われていたといえる。
これまで一般的な認識として、バブル後の日本企業には多角化が過剰なものが多く、「選択と集中」を進めることが望ましいとされてきたが、このことを実証的に示した論文は見られなかった。本研究によって、この事実を定量的に示すことができたことは意義深いといえる。
また、期首時点で多角化水準の高かった企業のうち、約半数は集中化を進め、パフォーマンスを改善させている一方で、残りの約半数はさらに多角化を推し進め、パフォーマンスを悪化させていることも観察された。この点において、日本企業の「選択と集中」はまだ不十分だといえる。