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マットグロッソの奥地へ指導員として入って行くのだそうだ。お互いに大いに話がはずんだが、所長が僕達の明日の行程を気ずかって、早めに切り上げてくれた。陽気で気のいいチリ人やアルゼンチン人
の招待は夜中の二時になっても三時になっても帰れず、翌日消耗したのを思い出し、察しのよいこの所長に感謝しながらベットに入った。

 

翌日は早朝、スクーターは農場を出発した。海岸山脈から離れる
に従って、日中の暑さが増してくるからだ。昨日のように一方通行
ではないが、かなり広い舗装路を進んで行く。昼間見ると茫漠とし
て、とりとめのない風景も、朝露に、木々の緑や派手な色彩の家々
が、一つ一つうき上がってはっきりと生気があふれる。サンパウロ
から続いた牧場や油桐の畑に換って、いよいよコーヒー園が増えて
くる。昨日と同じゆるやかな起伏を、茶畑のような感じのする濃い
緑のコーヒーの木がベッタリと蔽ってスカイラインを描く。

 

午後から雨となる。まだ雨期のあけていないブラジルのことであ
るから、雨は覚悟していたが、絶え間なく降り続く柔らかな雨をつ
いて、何時間も走るのは全く退屈だ。眠くなるのをこらえながら、
それでもスリップの危険があるからスピードを
60キロ以下に落として走っていると、独特の軽い排気音を残して、サッと「ランブレッ
タ」が追い越して行く。そして
10メートルばかり先に行ってから急にスピードを落として僕らが来るのを待っている。知らん顔をして
増速もせず、その車を抜いて行くとうしろで急にまたスピードを上
げた気配がし、すぐ抜き返しながらこっちを振り向いてニヤリとし
やがる。学生らしい若い男だ。スピード競争を挑んできていること
は、わかり切っているんだが、残念ながらランブレッタとスピード
を争っても、ギャレイシオの違いで簡単に負けてしまうのは今まで
の経験で嫌というほど知らされていたから、癪に障るけれど、ジッ
ト我慢して
60キロを守る。ランブレッタの方は、なんだそれしか走れないのかと云わんばかりに、僕等の前後を走り廻る。いいかげん
ジリジリしてきた時、少し先から道が長いのぼり坂になっているの
に気がついた。シメタ!と思い、敢然とランブレッタの挑戦に応じ
てスロットルを全開にした。平地でのスピード競争ではかなわなく
ても、坂道の競争だったら力の強いラビットはランブレッタの敵で
はない。思った通り僕が最高スピード
80キロにあげて100メートル
も行かないうちに、勝ち誇ったランブレッタが風を切って追い越し

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