中米スクーター旅行」より
上保慶一 記
中米寸描
狡猾、怠惰、貧困、不潔……カトリックの有力な檀家である中米の国々が、世界で一番モーゼの誡に背いているのではなかろうか。
我々を運んでくれる貨物船ペルー丸(K’line)は、メキシコのアカプルコから、次々と小さな港四つに寄港した後、12月5日(1958年)、最も中米らしい町コロンビアのブエナヴェンチューラへ入港した。"Buenaventura"
は "Good fortune" という意味だそうだが、その名の示すように、町全体が、未来の幸運に期待をかけざるを得ないような不潔きわまりない町であり、そこに住む人間も又同じようにきたならしく、身も心も醜悪な臭いを放っている。
今までの中米の港でも盗難は多かったけれど、彼等は貧しさのために、ほんの出来心で持って行くといった程度で、哀れには感じてもそれほど腹立たしいものではなかった。ところがここの奴はハク製のワニ売りに化けて、堂々と船室に入って来て、ちょっとこっちでぼやぼやしていると、手あたり次第に盗んで行くという魂胆だから、寸時の油断も出来ない。あとからあとから入って来てあまりうるさいからドアーの鍵を掛けておくと、今度はドンドン、ガンガンとたたく。戸を開けて「馬鹿野郎」なんてどなっても、そんな事で立ち去る相手ではない。廊下へでも出ようものなら大変で歯だけいやに白く我慢のならない体臭をむんむん発する黒人が、十数人集まって来て取り囲まれ、タバコをねだられる。そんな質の悪いドヂ公(船の人々は彼らをドヂ公と云う)が数十人も船に上って来ても、舷側に居る税関吏は一向平気だ。いや彼等は出来るだけ多く船に来てもらいたいのだ。と云うのはドヂ公達が、船に入る時には、乗船権をタラップの所で売り、彼らが品物をもって出て来る時には、それにちゃんと税金をかけるのだから。勿論それらの金はコロンビア政府の歳入になるのではない。税関吏のヘソクリである。驚く必要はない。こんな事は中米の国々では(南米でも大体そうであったが)ごく当り前の事である。
ブエナヴェンチューラの町は、小さな湾内の海岸にそって、細長く延びている。一般にアカプルコ以南の中南米の港では、埠頭の近くが、一番上流階級の人々が住む地域であるらしく、それにホテルや会社もある関係で、上陸した時は、どこでも一応清潔な町らしく見える。このブエナヴェンチューラの町も例外ではなく、税関の検
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