最終更新日:1999年3月5日
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東京都心から約100km北に離れたところに位置する栃木県宇都宮市は、現在人口43万余りを擁していて、栃木県の県庁所在地としてだけではなく北関東地域の中核都市として着実に発展してきた。それに伴って、低密度の市街地地域が拡大して自動車交通量が大幅に増加した。また、宇都宮都市圏はもともと一点集中型の都市構造をしているために中心部に自動車が集まる傾向がある。さらに宇都宮市の東部を流れる鬼怒川には市内の橋が鬼怒橋など3本しかなく、宇都宮市東部から中心部に向かう移動経路が限られてくるために必然的に車が集まってしまう。そして一世帯当たりの自動車保有台数が全国平均の1.35台を大きく上回る1.80台と非常に高い。こうした様々な要因が絡み合って、市街地地域の激しい道路交通渋滞が引き起こされた。
これに対処するため、宇都宮市は市街地地域の駐車場の整備を行ったり、電光掲示板で駐車場への誘導案内を行う駐車場誘導案内システムを市内の中心部に導入したり、バスの円滑な走行を促進するためにバスレーンを設置するなど様々な取り組みを行ってきた。そしてこういった交通問題への取り組みの一環として、1995(平成7)年に通勤時に郊外で自動車からバスに乗り換えることによって市中心部への流入交通を削減し、交通渋滞の緩和と公共交通の利用促進を図るパークアンドバスライドを実験的に実施した。
前述したように、宇都宮都市圏の自動車の移動は郊外から中心部への移動が集中している。そのため、都心流入部においてマイカーからバスに乗り換えるパークアンドバスライドを導入することが宇都宮市の抱える交通問題に対処する有効な手段と考えられるようになった。そういった考えの下に1994 (平成6)年に「宇都宮市パークアンドバスライド研究会」が組織され、その有効性や実現性が本格的に検討されるようになった。そして1995(平成7)年には「宇都宮市パークアンドバスライド推進協議会」が設立され、パークアンドバスライドの本格的実験が1995年11月13日〜15日に実施される運びとなった。
この1995年11月の実験は通勤ラッシュ時の渋滞の削減を目的とし、宇都宮市東部から中心部にマイカーで通勤している人を対象として行われた。具体的な実験ルートとしては宇都宮市東部を走る国道123号線が挙げられ、宇都宮市を中心に真岡市、芳賀町など近接の16の市町から637名のモニターが集められた。そして3箇所の駐車場が宇都宮市東部の郊外に確保され、そこに自動車を置いてバスに乗り換えてもらう形を取った。バスは早朝の通勤時間帯には約10分間隔で、夕方の帰宅時間帯には約15〜20分間隔で運行された。
この実験では、期間中の3日間で登録モニターの84.5%にあたる538名が参加した。期間中には主な渋滞箇所である平松町交差点や柳田大橋西交差点などで自動車交通量が減少した。また清原工業団地南部から東武宇都宮駅前までの約11kmの区間の所要時間も数分短縮された。
統計的に見ると、今回の実験に関してはある程度の効果が見られたことが分かる。また利用者側の反応について見てみても、今回の実験におおむね満足してパークアンドバスライドの必要性を認識した人が多かったようだ。しかし一方では、駐車場へのアクセスや自動車からバスへの乗り換えが面倒だという今回の実験に対する不満の声も見られた。また本格的実施の際には、料金などのサービス面の内容によって利用を検討したいという意見もあった。
宇都宮での実地調査を行うに当たって、市役所企画部交通対策課の柴田さんを訪問し、いくつかの質問をした。なお、以下の内容は要約である。
栃木県の人口や産業は、宇都宮市に集中している。このため、道路は放射状に延びているが、これに対して環状道路(通称宮環)も最近開通した。一方鉄道は、JR・東武ともに南北に走っているが、東西方向を結ぶ鉄道はない。このため、東西方向に走るバスは利用が多く幹線バスと呼ばれている。幹線バスは利用客が多いため、本数も多く便利であるが、ここからはずれるところを通るバスは本数が少なく、このために利用客が減り、さらに本数を減らすという悪循環に陥り、最終的に廃止されてしまった路線も多い。
このように、バスが低迷している中、マイカーが著しく普及し、渋滞や大気汚染、交通事故など深刻な問題を引き起こしている。
1回目の実験は、637人のモニターを募集し、3日間実験を行った。モニターの中には3日間とも実験に参加した人もいれば、1回しか参加しなかった人もいたため、一日につき400人ほどの人が参加することとなった。
実験当日は、宇都宮市が観光バスを借り、パークアンドバスライドの専用の貸し切りバスとして運転した。なお、この実験では駐車料金・バス料金ともに無料であった。
実験後に、モニターに対して行ったアンケート調査では「大変満足」「満足」と答えた人は50%強で、90%強のモニターが今後の必要性を感じているという結果がでた。さらに、パークアンドバスライドを本格的に実施するならば、「利用する」「サービスによっては利用する」と答えた人は約70%となっている。
また、1回目の実験では、パークアンドライドの効果がどれだけあるのかを市民にPRするというねらいもあった。この点に関して、各交差点における渋滞長が短くなっており、効果をPRできたと思われる。
しかし一方で、自宅から駐車場までのアクセス時間が長くなるほど満足度が下がり、駐車場の位置をどこにするのかという問題は、実施するに当たっての最重要課題のひとつといえる。さらに、乗り換え時間を含めた通勤総時間は、実験前より5分から15分程度長く、これに対して「不満」と答えた人が20%弱いた。
1度目の実験は、短期間であったため「1日くらいなら」という軽い気持ちで参加した人もいたと思われる。2度目の実験は11月4日から28日の25日間にわたって行い、日常的に定着するのかどうかを実験する。この実験では、路線を2つに増やし、1路線につき100人の計200人のモニターを募集している。モニター数が減っているのは、駐車場を長期間確保するのが難しいためである。今回は、一般の通勤バスを利用し、ほかの通勤客もそのバスに乗ることができるなど、より現実に即した状況で実験を行う。
バス料金については、現在の路線バスを利用する場合には、そのバス会社が適用している運賃体系になる。この場合往復で1000円ほどかかる。駐車料金については、今のところ未定である。これは、駐車場に市の土地を使うのか、民間の土地を借りるのか、買い取るのかによって大きな差がでるためである。
宇都宮市の東部に、建設省が造成した清原工業団地があるが、朝ラッシュ時には、工場に勤める人のために、都心から東部へ向かう道路も渋滞を起こしている。この渋滞を解消するため、愛知県豊田市を参考に駅や社員寮から工業団地までシャトルバスを走らせることを検討している。
宇都宮市では、このシャトルバスと、パークアンドライドを渋滞緩和策として実用化に向けて取り組んでいる。
市で実験しているパークアンドライドとは別に、JRや東武の駅近くの駐車場に車を止め、鉄道で都心に向かうという通勤客が現れている。これは、都心の駐車場よりも駐車料金が安いほか、バスを利用するパークアンドライドに比べ、渋滞の心配がない、鉄道料金は比較的安いなどのメリットがある。現在は、駐車場は民間のものを使うなど、行政は全く関係していないが、近い将来、何らかの形で関与する必要性がでてくるかもしれない。
こういったことを総括すると、今回のパークアンドバスライドの実験に関してはある程度は交通渋滞の緩和に寄与することができたが、システム料金の低減化を図る必要性や、バス所要時間の短縮や駐車場の位置改善などの課題が出た。今後はこういった課題を踏まえてパークアンドバスライドのシステム全体が検討されることが不可欠であろう。
1997(平成9)年11月に予定されている実験は、路線を2つに増やし、西部ルートも運行する。今回の実験の特徴は長期間にわたって行われるということである。この実験ではパークアンドライドの効果を調べるというよりは日常生活の中に定着するのかを重点的に調べる。つまり、家を出て自動車で駐車場まで行き、バスに乗り換えて都心の停留所で降り、歩いて会社等に行くという一連の行動を、毎日繰り返しているうちにはじめは面倒に思っていたものがだんだん慣れてきて面倒に思わなくなるのか、それとも逆にはじめは何とも思わなかったものが繰り返すうちに面倒に思うようになるのかということを調べる。
実験は11月中に終わり、1998(平成10)年1月までに調査結果を集計・分析し、3月頃には、パークアンドライドのシステム導入実施計画(案)が作成される予定である。
宇都宮市ではパークアンドライドが成功を収めたら、次の段階として、サイクルアンドバスライドの実施計画があるという。これは、幹線バスのバス停近くに駐輪場をもうけ、ここまで自転車で来てバスに乗ってもらおうというものである。これにより、バスの利用できる区域が広がり、バス路線のない地域や、あっても本数の少ない地域からでもバス利用で都心に出られるようになる。しかし現段階ではどこから手を着けていいのかわからず、まだ構想段階だという。
このように宇都宮市では渋滞緩和策として、パークアンドバスライドの導入でバスを積極的に利用してもらおうとしているが、この背景にはマイカーの普及で利用客が激減してしまったバスを活性化させようという考えがあるようだ。
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