最終更新日:1999年3月5日
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愛知県名古屋市。名古屋圏の中心である同市に流入する通勤・通学人口は1990(平成2)年の国勢調査では53万6千人となっている。この53万6千人という人口の流動は同年調査の東京都区部への354万2千人、大阪市への148万2千人と比較すると非常に少ない。しかし、この3都市とそれを含む都市圏の人口および規模を考慮に入れると一概に絶対的な流動人口の多い少ないだけで渋滞の規模を考えることはできないはずである。
では次にこれらの人々がどのような交通手段を用いているかということを見ていくことにする。下の図は三大都市圏の1991(平成3)年の輸送機関分担率を示したものである。下の図を見ると愛知県の自家用乗用車の利用率が66%と極めて高い率を示していることがわかる。それと同時に鉄道の利用率が22%と極めて低い率であることがわかる。名古屋圏の鉄道1キロあたりの1日の輸送人員は3500人。首都圏の17,000人、京阪神圏の10,200人と比べて5分の1から3分の1程度である。これは鉄道の営業キロ数が首都圏の2200キロ、京阪神の1417キロに対し名古屋圏は922キロと短く、1平方キロあたりの駅の密度も首都圏の0.21駅、京阪神圏の0.18駅に対し名古屋圏は0.14駅となっており利便性も低いことが先ほどの鉄道の利用率の低さに影響していることも十分に考えられる。また、1993(平成5)年12月3日に東名阪自動車道と東名高速道路を直結する名古屋環状2号線が開通し、道路網の整備が進んでいることも車の利用が多くなる原因の1つになっている。
なお、以下の話は名古屋市役所計画局都市計画部施設計画課の方から伺った話をもとにしている。
車の流入台数の増加によって渋滞が発生することは当然の結果であるが、名古屋市中心部の道路は広めに整備されており、市中心部で首都圏に見られるような大渋滞はあまり発生していない。名古屋市の渋滞が発生する原因は名古屋市の地理的条件によるところが大きい。名古屋市は下図の通りいくつかの河川によって囲まれており、さらにそこにかかっている橋が少ないこともあって渋滞が発生しているのである。
従って名古屋市内への車の流入を食い止めようとすると、フランスなどでは事例のある奇数ナンバーと偶数ナンバーに分けて、日によって一方のナンバーしか通行できないようにするという施策も考えられる。しかし、この施策を名古屋市で実行するには相当の困難が予想される。なぜならば、この施策を成功させるためには代替輸送機関(この場合は鉄道網)の充実が前提となるが、先述の通り名古屋圏では鉄道網は不十分である。従って同施策の実行は困難である。しかも愛知県には日本最大の自動車会社の本社がある。そして自動車を主とした輸送機械工業が同県では大きな影響力を持っている。そうなると愛知県は同県での政策に関して自動車産業への影響を考慮せざるを得なくなり思い切った交通政策を施行できないのである。県がこのような姿勢をとると愛知県の市町村も県の姿勢に追随してしまい、名古屋市がいくら自動車の利用の自粛を呼びかけても周辺市町村はその要請を拒んでしまう傾向にある。
このような状況下で名古屋市は1992(平成4)年に「ノーカーデー」の実施を宣言し、自家用自動車の使用自粛を訴え市営地下鉄および市営バスの割引乗車券の販売を始めた。しかし、愛知県側は「要請があれば協力するが、主唱はしない」という立場をとり「ノーカーデーなんて非現実的」という態度を示した。このようにして同年12月10日に「ノーカーデー」は実施されたが実施時期や天候から目立った効果を上げることができなかった。この「ノーカーデー」という試みは現在では毎月8日に行われているが、名古屋市側も積極的な広報活動は行っておらず、効果はあがっていない。
しかし、県内の自動車交通量が毎年3〜4%ずつ増加しており、愛知県も20年後には現在の倍の交通量になるという計算報告を受けて、1992(平成4)年3月には「環境にやさしい自動車利用方針」を打ち出し、車の効率的な利用を呼びかけた。
名古屋市の外縁部、つまり市営地下鉄の起終点駅近傍までは自家用車を利用し、そしてそれらの駅の周辺に駐車場を整備してそこに駐車してもらい、そこからは市営地下鉄を利用してもらおうというパークアンドライド駐車場設置の検討が始まった。1989(平成元)年3月に引山バスターミナルの北側に50台分の駐車場を整備した(次ページ参照)。同バスターミナルからは名古屋市内の中心部である栄・名古屋駅に向けてバス専用レーンを通るバスが運行されている。朝のラッシュ時でも同区間を、自動車を利用した場合の約半分の20〜25分で結ぶことが可能となった。また5分に1本の割合でバスは運行されているので非常に便利である。
この駐車場の特徴はバスターミナルまで家族に送ってもらい、そこからは公共交通機関を利用して通勤するキスアンドライドという通勤形態を想定した自動車乗り換え用スペースが設けられていることである。
このようにさまざまな通勤形態を持つ人々が利用できるように工夫された同パークアンドライド駐車場は非常に評判がよく、同バスターミナルと栄・名古屋駅を結ぶバス路線は名古屋市営バスのバス路線の中でも有数の黒字路線となっている。
次に、名古屋市は1993(平成5)年に東名阪自動車道が全通したことにより名古屋I.C.付近の交通量が増加した。同I.C.付近には市営地下鉄東山線上社駅が存在したので、高速道路の高架下の空きスペースを活用してパークアンドライド用駐車場として整備する作業を進め1996(平成8)年5月1日より93台分の駐車スペースを持った\上社パークアンドライド駐車場の供用を開始し、十分に利用されている。現段階で名古屋市が整備したパークアンドライド駐車場は以上の2地点143台分のみである。これだけでは目に見える効果が現れてこない。しかし、今後も名古屋市は各地にパークアンドライド用駐車場を整備する意向である。
これ以外に名古屋市内には民間が管理しているパークアンドライド駐車場が1994年度末の段階でおよそ2500台あると推計され、例えばユーストア平針店の平日に限ったパークアンドライド駐車場(600台分)があげられる。
また、同年度末の段階で鉄道高架下や鉄道用敷地内に設置されているパークアンドライド駐車場は名古屋駅から40キロ圏内で名古屋鉄道が172カ所に約13,000台、近畿日本鉄道が28カ所に約900台、JR東海は19カ所に約700台分設置している。
鉄道を利用して名古屋市へ通勤している人数は1991(平成3)年では約26万人で、同年度実施の第3回パーソントリップ調査でこれらの人々の中で名古屋市内で約2300人、市街で約23,200人の合計約25,500人がパークアンドライド方式を利用しており、鉄道を利用している人々のおよそ10%にあたる。ところが、名古屋市内のパークアンドライド駐車場はその大半が民間経営であり、しかも土地の暫定利用としての色彩が極めて強いため、いずれは他の用途に転換される可能性が高い。そこで名古屋市側はパークアンドライド駐車場の整備はもちろんのこと、これらの土地を他の用途に転用しないように地主に協力を求めていく方針である。
以上のようなパークアンドライドは名古屋市が単独で行っている為、予算の確保が非常に難しく、駐車場用地を借り上げる費用さえ十分に用意できない。また、県主導でないことから周辺市町村の協力も得られていない。例えば名古屋市の周辺市町村にパークアンドライド駐車場を設置すると、設置した分だけ自動車の名古屋市への流入は防げるが周辺市町村は駐車場用地の確保に見合ったメリットがないため消極的である。しかし、名古屋市は渋滞緩和はもちろんのこと環境保全に効果があり、なおかつ自動車の利用を全面的に禁止することにはならないパークアンドライド駐車場の設置の拡大を進めていきたいとしている。10年後には数千台の同駐車場を整備しようという計画も立てている。
また、名古屋市ではパークアンドライド駐車場設置以外に進めている施策がある。それは名古屋市内、特に都心部の有料駐車場の案内の充実化である。これは名古屋市は他都市に比べると比較的有料駐車場は普及しているのだがどうも場所がわかりにくいといったことなどから空駐車場を探すのに苦労したり特定の駐車場だけが混雑しさらにそういった駐車場待ちの車による渋滞が発生しているからである。これを受けて名古屋市は栄地区に地域を限定して(同地域には30台以上の貸し駐車場が77ヵ所、計9300台の有料駐車場が存在)同地域付近で3段階による駐車場の案内システムを作り利用者から好評を博している。また、カーナビゲーションシステムを使った案内も行っている。これも利用者から好評を博している。
以上のように名古屋市のパークアンドライドが機能しているとはいえない。これは台数が少ないということは当然のこととして、実施する名古屋市が政令指定都市ということで組織が複雑であることもあげられる。「車社会」と呼ばれている名古屋市にパークアンドライドという方式を輸入しただけでは効果は上がらないのは当然のことである。しかし、自動車が市民生活にこれだけ深く浸透している都市でのパークアンドライドの実施は今後の交通政策に何らかの影響を及ぼすと思うので今しばらく見守っていたいと思う。
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