第2部 周囲との連携


この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。


第1章 運輸省の基本姿勢

「利用しやすい交通機関」を目指す動きに対する運輸省の姿勢はここ数年の間に急激な変化を見せている。 ここでは、『平成8年度運輸白書』における「人に優しい運輸をめざした運輸政策の展開(白書第1章第3節)」と、『平成11年度運輸省重点施策について 〜21世紀をより豊かなものとするための交通運輸システム構築に向けて〜 (新時代へ向けた交通運輸政策の挑戦)』における「豊かな国民生活と地域社会の創造に向けた貢献(上記文献第2章)」から関連するトピックについて解説してゆきたい。

・運輸省の基本政策

いうまでもなく、運輸省は交通事業者に対して監督する立場にあり、また指導する立場にあり、そして援助する立場にある。 従って運輸省の政策とは、

  1. 交通事業者に対する各種設備の具体的な方向付けを定めたガイドラインの策定
  2. 上記のガイドライン実現に向けての交通事業者に対する具体的な援助

の2つに分類することができるだろう。 つまり、目標とそれを実現するための手段、ということである。

1. 各種設備の指針

運輸省の具体的指針、つまり施策の内容に関しては、冒頭であげた文献のうち後者の『平成11年度運輸省重点施策について』に詳しく述べられている。 その中において運輸省は「豊かな国民生活と地域社会を志向する国民のニーズに十分に対応するためには、(上記文献)第1章のような市場原理の活用による交通運輸サービスの向上を図るとともに、市場原理の活用のみでは十分に対応できない域内の安全かつ円滑な交通運輸の確保、利便性の高い交通運輸の確保、環境への配慮といった課題や、物流の構造改革への要請に対応することなども必要であり、以下の施策の展開が求められている」と前置きした上で、以下の項目をあげている(関連するもののみ掲載)。

・都市交通サービスの高度化

・高齢者・障害者等に利用しやすい交通環境の整備

2. 交通事業者に対する具体的な援助

1で述べた施策の手段として、冒頭であげた文献のうち前者の『平成8年度運輸白書』から、その内容について解説する。

(1) 財政的支援の実施

運輸省の具体的政策の中心となるものは各種運輸機関の設備投資、いわゆる箱モノに対する補助である。 これらは従来、日本開発銀行(99年10月1日をもって、日本政策投資銀行にその業務を移管)からの低金利融資や、民間等からの出資を中心として設立された財団法人交通アメニティ推進機構などによって行われていたが、近年は運輸省も同財団などを通じて「交通施設利用円滑化対策費補助金」との名目で設備投資を後押しする方向に動いており、金額面での増加も著しい。 たとえば、1999(平成11)年度予算において主に鉄道駅を中心とする交通ターミナルにおけるエレベーター・エスカレーター拡充を柱とするバリアフリー化予算についてはJR駅に関して数千万円、地下鉄駅に数億円が計上されたのみであり、第3次補正予算でそれぞれ50億円、31億円に上積みされたが、来年度(2000年度)予算に関しては全額を当初予算より要求する。

また、これまでこれらはすべて「非公共事業」の扱いとなっていたが、来年度より15億円を「公共事業」扱いとする(税金控除等各種条件が有利となる)ほか、バリアフリー化の対象もエスカレーター・エレベーターの整備のみならずノンステップバスの導入補助や路面電車整備などにも広げて行う予定である。 他にも、大手民鉄に比べて経営体力で劣る地方の中小私鉄のバリアフリー化を支援するための補助金を別枠で設ける。 これらをすべて含めて、来年度予算で請求するバリアフリー化予算は総額でおよそ百数十億円になる見込みである。 これら各種補助金の金額面における増加は、その名の通り「バリアフリー化」を推進する目的の他に、いわゆる公共事業費増加による景気へのてこ入れ策という側面も含んでいるのが実状であると考えて差し支えないだろう。

また、路面電車の車両交通整備などに関しては、近年の流れを受けて上で述べたバリアフリー化とはまた別に、地下鉄および新交通システムに続いて補助金が出されることが決定し、実際に広島電鉄、及び熊本市電におけるLRT導入については一定額の補助金が出された。

(2) 運賃割引制度

運輸省は設備投資への補助金を通して利用者の使い勝手を向上させる方策とは別に、身体障害者などの移動制約者への配慮として運賃割引制度を導入している。 これについては、第3部第3章で詳しくふれられているのでそちらを参照されたい。

3. まとめ

以上運輸省の政策についてざっと述べてきたが、この分野における運輸省の政策は全般として場当たり的なものが多く、現状追認型の傾向が強いという点は否めない。 例えば昨今各所で導入が検討されている、あるいは導入されつつあるLRTなどに関しても古くは1985年ごろから識者の間ではその導入を唱える声があったにも関わらず、運輸省が政策として導入を補助することにしたのはLRTが盛んにもてはやされるようになってきたごく最近である。 そして高度成長経済時代においては運輸省ならびに行政は路面電車を旧態依然なものとして廃止する政策を推し進めていたことを考えると、LRTに関する政策決定は運輸省における長期的な視野というものの欠如の一端を示しているのかもしれない。 「利用しやすい交通機関」を実現する動きの中で運輸省に求められるものとは、このような近視眼的な場当たり政策ではなく、単複併せ持った政策をもって、財政および立法の両側面から交通事業者に対しての指導を行っていくことであろうと考えられる。


→「第2章 まちづくり」へ



この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。


Last modified:

一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)