この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。
今年の研究テーマは「利用しやすい交通機関を考える」です。 人が移動手段として交通機関を利用する以上、それが便利であるに越したことはないでしょう。 しかし現状を見ると、必ずしも利用しやすいものばかりではありません。 皆が望んでいるであろう「利用しやすさ」が、なぜなかなか提供されないのか、それを見てみました。
利用しやすさを改善する方法としては、 大きく分けて、交通機関の事業者自身によるものと、周囲の環境を整備するものとがあります。 第1部では、事業者による取り組みを取り上げました。 第1章では駅施設や車両といったいわゆる「ハード面」での取り組み、 第2章では案内や改札など、サービスの提供の仕方についての取り組みを取り上げています。 また第3章では、近年その役割が見直されている「軽交通」、 つまりバス・路面電車・新交通システムについて総括的に紹介してみました。 これらの軽交通は、公共交通による域内移動を便利にすることができるのでないか、と期待されています。
第2部では、周囲の環境の整備、周囲との連携について取り上げました。 以前、公共交通事業は規制が強く、 事業者がユニークな方策を考えつきながらも規制のために実現できなかった、ということもありました。 最近ではそのようなことは少なくなり、 むしろ運輸省は積極的な施設改善を支援する姿勢に転じつつありますが、 現状追認でまだ力が入っていない、という見方もあります。 第1章では現在の運輸省の姿勢について取り上げました。 また、交通機関の利用には、街の構造も密接に関わってきます。 第2章では、交通機関の利用を支援するまちづくりについて見てみました。 そして第3章では、行政と一体となった施設改善の例として、 船橋駅南口・京成船橋駅での取り組みについて実地調査を行い、これを紹介しています。
第3部では、これらの改善を行うにあたって生じる問題点や、 これだけでは不足している部分について考察を行いました。 まず、施設改善は避けて通れない財源問題について、第1章で取り上げています。 また、「改善」を行ったつもりが一部の利用者にとっては不便となってしまったという矛盾について、 その兼ね合いをどう解消するか、第2章で見てみました。 そして、とりわけ「移動制約者」と呼ばれる人々に対する配慮について、第3章で取り上げています。
これまで見てきた方策の中には、資金も時間もかかるものもあれば、 すぐにでも導入できるものもあります。 最近では「バリアフリー」という言葉がキーワードになって、大がかりで人目を引く施設改善も数多くなされています。 しかし、継続的に改善を続けるには、多くの人々で共用できる改善を行うことも必要なように思えます。 全く新しい設備を導入するよりは、より多くの人々が便利に利用できる工夫を行う方が、 コストもかからず、効率よく設備が利用できるでしょう。
「バリアフリー」を流行に終わらせないためにも、 派手な施策ばかりでなく、地道な改善を続けていくべきであると考えます。
この研究を行うにあたって、数多くの文献を参考にいたしました。 また、船橋市都市整備部船橋駅南口再開発事務所の方には、多忙の中で説明をいただきました。 末筆ながらここにお礼を申し上げます。
1999年10月 一橋大学鉄道研究会 部長 霜崎 祐介
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