この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。
日本に鉄道が走り始めから100年はゆうに過ぎているが、その間の鉄道施設の環境の変化はすさまじいものがあった。軌道や台車の改善により揺れの少ない車両が開発されて乗り心地がよくなったのはもちろんのこと、案内などの情報提供という観点から見ても、鉄道が利用しやすくなったと言えるだろう。同時に、施設の機械化も進んできた。駅での発車案内には最新の電光掲示板が導入され、利便性が大いに増した。しかし、一方では券売機などの操作が複雑化したことによりとまどいを覚える人がいるというのもまた事実である。
駅施設ではエレベーターやエスカレーターの設置がさかんに行われてきた。これはお年寄りや移動制約者はもとより全ての人にとってありがたいことであるはずだが、それによってホームや階段が狭くなってラッシュ時に人の流れが滞るようになってしまった例もある。階段しかなかった昔に比べて便利になったはずが、特定の時間帯に無数の人々が集中する日本のラッシュ時にはかえって邪魔者になってしまうという矛盾と言えるだろう。事業者は利便性を高めようと様々なサービスを考案し、導入してきたが、それがいつもうまくいくとは限らないのである。
便利な公共交通にしろと、口で言うのは簡単だ。事業者も、カネさえあればそうしているに決まっている。しかし現実ではそれほど財源に余裕はない。民間の事業者であれば当然、利潤追求を第一に考えるので設備投資に使える財源には限りがある。いくら便利な施設を造るといっても、そのために運賃を2倍にしますと言えば利用者は納得しないだろう。
公共交通を便利にするのだから税金をバンバンつぎ込めばいいじゃないかという人もいるだろうが、それによって便益を受ける人が限られているのでなかなかそうも行かない。国レベルの政策で見ても、運輸省は口は出せてもカネは出せないということもある。限られた財源の中でより多くの人が便益を受けることの設備とは何なのかを、今後はより深く考えていく必要があるだろう。
日本では、他の国々では類を見ないほどのスピードで人口の高齢化が進んでいる。そうなれば当然移動制約者の数も増えてくるわけで、今よりもさらにそのような人々を考慮した設備が求められるようになるだろう。若くて元気な人と移動制約者とが必要とする設備は異なるところも多々あるが、双方の行動を分析した上でいかにしたらそのギャップを少なくできるかというのも今後の大きな課題の一つとなる。
事業者も常にそのことを念頭に置いて、今後もより利用しやすい公共交通を目指して邁進してほしい。21世紀を目前に控え、今こそ今後の公共交通のあり方を議論するべき時だ。ただし、いつ何時でも安全運行こそが一番に考えられなければならないということを忘れずに。
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一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)