第１部　合理化の具体例

第１章　人件費削減と機械化

この章では合理化の具体例として、人件費の削減を目的としたワンマン運転と、機械化による作業効率の向上を目的とした自動改札について述べていくことにする。

●ワンマン化の背景

鉄・軌道業で合理化を行う上で着眼点の１つに人件費の問題がある。これまで鉄・軌道業では、安全・快適に運行するために信号通信・ポイント操作のための人間が必要となり、列車に車掌を乗務させ、駅を設けて出改札掛を置いている。そのため、鉄道事業の営業費用に占める人件費の割合は概ね50％前後と、高い率を示している。

	大手私鉄	中小私鉄	私鉄計	公営	営団	路面電車	地下鉄
1964年	50	59	52	70	39
1969年	51.9	63.6	54.0	69.4	41.8
1974年	58.5	67.3	59.9	70.3	53.7
1979年	54.1	61.1	55.5	61.5	44.4	76.6	54.5
1984年	48.9	58.2	50.1	53.2	43.8	71.4	49.2
1989年	45.4	53.6	47.0	49.0	44.9	70.2	47.1

表1-1-1　営業費に占める人件費の割合（単位％）
（「鉄道ピクトリアル」1992.2（鉄道図書刊行会）より作成）

表１-１-１を見ると、1974（昭和49）年を境にそれまでの人件費比率の上昇傾向が転じて低下することになるが、それ以前は昭和40年代高度経済成長期の賃金の上昇に伴って人件費が増大したものであり、1974（昭和49）年以降は、輸送力増強投資や、省力化を推進する出改札機や運行・運転に対するバックアップシステムの導入のために費用がかさんだため、相対的な人件費は減少している。しかし前述の通り、鉄道事業において人件費は相当なもので、合理化の一環として人件費の削減が行われることになった。

この結果出現した数ヵ所の駅を１ヶ所の駅で管理する「管理駅制度」は、非管理駅は終日にわたって駅長はもとより、駅係員が１人も配置されていない。また、駅の信号取り扱いも管理駅からの遠隔制御化や集中制御化、あるいは自動化が行われた。

しかし鉄道事業者の懸命な経営努力もあまり効果が得られず、さらに強力な合理化・省力化の推進が必要となった。すでに鉄道の各部門で進められてきた合理化・省力化も限度となり、列車の乗務員の運転士と車掌の合理化が真剣に検討された。高速でかつ大量輸送を行う鉄道においては、運転士を省略した列車の運転は、安全確保の観点から利用者等の合意を得ることは極めて困難であることが予測された。このため、車掌の乗務を省略する列車の運転（ワンマン運転）が検討されることとなった。そこで、運転士の業務の内容が蒸気機関車を運転していた頃に比べ、現在は比較的軽くなったこと、また、自動列車運転装置等の新しい技術を取り入れることなどによって、運転士が車掌の業務を兼ねることが可能となるのではないかといった結論が得られた。

●ワンマン化の普及

わが国の普通鉄道の旅客列車でワンマン運転が初めて運転されたのは、 1971（昭和46）年で、関東鉄道竜ヶ崎線佐貫～竜ヶ崎間（4.5㎞）である。この区間は単線で、隣接線路が設けられていないことから、ほとんど列車の乗務員が列車防護を行う必要がなかった。

このようにして開始されたワンマン運転は、その後も地方中小私鉄で徐々に導入が図られた。これまでは単線区間を対象として行われていたワンマン運転であったが、 1975（昭和50）年には、複線区間の静岡鉄道静岡清水線の新静岡～新清水間（11.0㎞）でワンマン運転が行われた。複線区間であることから、列車の乗務員が列車防護を行う場合があり、これを自動的に行うための装置が新たに設けられた。また、今までは地方中小私鉄の路線でしか見ることのできなかったワンマン運転であったが、 1984（昭和59）年には福岡市の地下鉄がワンマン運転を開始した。都市交通のしかも地下鉄においてワンマン運転が行われ、今までのワンマン運転の列車は１～２両の短編成であったのが、地下鉄では６両編成のワンマン運転が行われることとなった。さらに、このワンマン運転は運転士の作業の軽減化を図るために、自動運転装置（ＡＴＯ）が搭載され、運転士の操作は発車ボタンを押すだけとなった。その後開業したワンマン運転の地下鉄の中には、列車が駅から進出する際に運転士がホームの状況を監視するために運転席にテレビモニター装置が設けられたものもある。

その後ワンマン運転はＪＲにも波及し、ローカル線を中心に、1988（昭和63）年以降本格的にワンマン化が進められた。最近の地方中小私鉄では、ワンマン運転が特に目新しいものでもなく、第３セクター線ではほとんどがワンマン運転となっている。

一方大手民鉄では、名鉄・近鉄を中心に既存路線のワンマン化が進められているが、いずれも閑散線区の省力化の一環として実施されたものであった。ただしその中で、西武鉄道多摩川線や近鉄田原本線といった、通勤路線の範疇に入るような路線についても徐々にワンマン運転が増えてきている。

なおワンマン運転は旅客列車のみならず、貨物列車にも存在する。旧国鉄は1986（昭和61）年から、民鉄では衣浦臨海鉄道で1990（平成２）年から貨物列車のワンマン運転を行っている。

●ワンマン化の効果

ではワンマン化にはどれほどの効果があるのだろうか。

ここでＪＲ北海道の根室本線釧路～根室間（花咲線）におけるワンマン化による要員合理化の例を見てみよう。表１-１-２を参照してほしい。この区間は無人駅が多いが、乗車率も52％とさほど多くないので、ワンマン運転を実施するのにさしたる問題はない。実際ワンマン化したところ、同区間の車掌数が14人から４人へと減少し、10人の合理化が図られている。またワンマン化による年間人件費節減額が車両投入に要した費用を大きく上回っているため、１年当たりの経費は7465万円の節減となっている。よってこの区間ではワンマン化の効果が大きいことがわかる。

なお、どの区間でもワンマン化ができるわけではないが、ワンマン化によって要員合理化が可能な区間もあり、その例を表１-１-３にあげておく（表１-１-３は10年ほど前のものであり、その後ワンマン化した区間もあると思われる。）

●ワンマン化の問題

・安全面

ワンマン運転では、これまで車掌が行ってきた列車防護の職務を運転士が代行する必要がある。例えば列車のドアを閉めるときには、運転士はホーム上に設置された鏡や、ホームに設置されたテレビカメラからの画像を列車の運転席に設けられたテレビモニターで見ることによって、あるいは自ら窓から首を出して旅客の乗降状態を確認している。しかし、テレビモニターなどで間接的に旅客の乗降状態を確認するのは安全性の点で肉眼での確認より劣る。また地上側の設備として、ホーム柵やホームドア（図１-１-４を参照）を設けて、乗客の線路転落を防いでいるが、実施している路線は少ない。さらには、列車内での秩序が乱れないか、列車内で事件が起きたときの対処などに不安をかかえる乗客もいる。

・分かりやすさ

これまでと同程度のサービスを維持するならば、なるべくワンマン化が利用者に新たな負担をかけないようにしなくてはいけない。しかし現状ではまだまだワンマン列車は利用しにくい。まず乗降扉については、路線によって｢後乗り前降り｣｢前乗り前降り｣｢指定なし｣などさまざまである。また、列車内では運賃表示機が最前部にしかない場合が多く、不便である。そして下車時、自分の降りる駅では最前部の扉しか開かないのか、それともすべての扉が開くのか分かりづらい。

・運賃の取りこぼし

ワンマンバスと違ってワンマン列車では運賃収受が徹底されていない。もっともワンマン化されていない路線でも無札乗車等による運賃の取りこぼしが発生しているので、おそらく人件費削減額のほうが大きいのだろう。しかし運賃収受を徹底することが望ましく、近鉄養老線のように乗車券の発売業務のみを行う車掌が乗務するというのも一案である。この形態では、ドアの開閉などは運転士の業務である。これにより運賃の取りこぼしが少なくなる上、車掌は列車の行き先や時間帯により乗務区間を柔軟に変化させることができるので、人件費の削減にもつながる。なお、この形態はＪＲ線でも時々見かけることがある。

●無人運転について

これまでワンマン運転について述べてきたが、ワンマン運転よりもいっそう合理化を進めた形で、車掌どころか運転士すらいない「無人運転」の形態をとる路線が存在する。

日本で初めて無人運転で営業を開始したのは、兵庫県神戸市の神戸新交通ポートアイランド線（ポートライナー）で、1981（昭和56）年の開業である。その後、大阪や横浜、東京でも無人運転による新交通システム線が開業している。無人運転に当たっては、運転操作をすべてコンピューターによって自動化し、ホームからの転落を防ぐためにホームドアを設け、車内に非常通報装置が設けられている。しかし、無人運転の安全度は100％とは言えず、1993（平成5）年には大阪のニュートラムで終点の住之江公園駅に停車する際、列車が減速せずに車止めに激突し、多数の乗客が負傷するという事故が起こっている。また、東京のゆりかもめでも開業直後はさまざまな事故が起きている。このため無人運転が可能な車両でも、安全性の問題から乗務員が添乗している路線もある。

ところで、合理化という観点で無人運転の形態を見ると、無人運転のための施設の建設費は相当のものだが、これは償却が済むまでの費用であり、車両キロ数または旅客数が増加するに従って運賃への負担が軽減される性質の費用である。それに対して乗務員にかかる人件費は、列車を走らせる限り恒常的にかかる費用であるし、車両キロ数や旅客数に応じて増大する。短期的に当該施設に対する資本費が、省略できた人員にかかる人件費の節約分を上回ったとしても、長期的に見れば経費削減になっている。

2. 自動改札

機械化・人件費削減による合理化の１つに自動改札機の導入があげられる。今や大都市ではすっかりおなじみとなった自動改札機ではあるが、今なお導入駅数は増えつづけている。

●自動改札の歴史

日本における自動改札機の導入は、1967（昭和42）年に阪急電鉄の北千里駅に設置されたのが初めてで、本格的には1971（昭和46）年以降、関西の民鉄および各市交通局（地下鉄）で採用されてきた。関東の民鉄では関西の民鉄に比べて導入時期は遅かった。旧国鉄でも昭和40年代後半に試験的に武蔵野線や片町線等に導入しているのですでに30年弱経過しており、決して新しいものではない。自動改札が関西で早くから進み、関東では遅々として進まなかったが、その理由の一つに関東では各社間の連絡運輸や相互直通運転が多く、各社の乗車券のエンコード化が進まなかったことがある。これは情報量が多い規格ができたことにより解決されることになった。そしてＪＲ東日本は1990（平成２）年から首都圏で自動改札の導入を始め、続いてＪＲ東海、ＪＲ西日本にも導入された。最近ではＪＲ九州やＪＲ北海道でも導入されている。また、自動改札機の導入は新幹線にまで及んでいる。

会社名	設置駅数	全駅数	会社名	設置駅数	全駅数
東武	116	200	名鉄	71	360
西武	79	92	近鉄	147	347
京成	51	62	南海	99	116
京王	67	69	京阪	57	85
小田急	69	71	阪急	84	84
東急	80	89	阪神	40	42
京急	72	72	西鉄	34	85
営団	152	158	大手民鉄計	1243	1957
相鉄	25	25	大手民鉄計	1243	1957

表1-1-5　98年度時点の大手民鉄の自動改札機導入状況
（注）原則として第２種鉄道事業路線を除く（東急のみ含む）
（「大手民鉄の素顔」（社団法人日本民営鉄道協会）より作成）

●自動改札機の効果

では自動改札機の導入にはどれほどの効果があるのだろうか。

ここでＪＲ東日本管内のある駅における自動改札機導入による要員合理化の例を見てみよう。表１-１-６を参照してほしい。この駅では自動改札機導入により、集改札要員が42人から34人へと減少し、８人の合理化が図られている。また自動改札機導入に要した経費が自動改札機導入による年間人件費節減額を大きく上回っているが、恒常的にかかる人件費と違って、長期的に見れば１年当たりの経費は2995万円の節減となっている。よってこの駅では自動改札機導入の効果が大きいことがわかる。しかし、当然自動改札機導入はどの駅でも合理化の効果があるわけがなく、いきなりもともと駅員が１人か２人しかいない地方の駅に導入してもかえって経費が増大するだけである。しかし自動改札機導入によって要員合理化が可能な駅もあり、その例を表１-１-７にあげておく（表１-１-７は10年ほど前のものであり、その後自動改札化した駅もあると思われる）。

●自動改札機の長短

こうして導入された自動改札機だが、これほどまで普及したのは以下の点が考えられる。

前述のとおり改札口の要員を減らすことができ、人件費を減らしている。
機械化により、短時間で多くの利用客をさばけるようになった。
今まで目視で不正利用をチェックしていたのが、機械でできるようになり、不正利用を発見しやすくなった。
ストアードフェアシステムを導入することができ近距離利用なら切符を買わずに列車に乗れるようになった。

一方、問題点もあり、

どの切符が自動改札機に通せて、どの切符が通せないかが分かりづらい（特にJR）。磁気化されていても改札機に通せない切符がある。また、ホチキスでとめられた切符はそのままでは改札機に通せない。
新幹線では、乗車券と特急券を２枚重ねて自動改札機の投入口に入れることになっているが、この方式が十分に理解されていない。
鉄道会社によって一度に自動改札機の投入口に入れられる最大の切符の枚数が違い、分かりづらい。（以上図１-１-８･９を参照）
不正防止のため自動改札機の幅が狭くなっており車椅子では通りづらい。
有人改札は駅の規模に関わらず、だいたい改札口の端に１ヶ所あるだけなので、込んでいて、通るのに時間がかかる。
自動改札機の扉が急に閉まることがあり、危険である。
たまに有人改札口に誰もいないことがある。

などの点が挙げられる。自動改札化されて逆に利用しづらくなったというのでは、合理化の結果サービスを維持（または向上）したとは言い難いので、改善策として、自動改札機対応の切符の範囲をより拡大したり、自動精算機の整備も進めたりすることで、有人改札口に行列ができないようにし、自動改札機の能力を十分発揮することが望ましい。

●ストアードフェアシステム

自動改札機の導入が進むにつれてストアードフェアカードが登場した（ストアードフェアカードについては序章を参照）。これは自動改札機の導入のときと同様、関東よりも関西のほうで導入が進んでいる。最近では異なる事業者間を１枚のカードで乗れる共通カードが登場し、さらに便利になっている。

しかしこのストアードフェアカードもまだ使いづらい点がある。

カードの残額が初乗り運賃に満たない場合は自動改札機に直接通すことができず、券売機で切符を買わなければならない。（関西地方ではこのような時、別のカードと組み合わせて２枚いっしょに自動改札機に通せるものもある。）
関東地方を中心にこども専用のカードがなく、こどもはストアードフェアシステムの恩恵を受けていない。
券売機でカードを使ったときは具体的なカードの残額がわからない場合が多い。
どの駅でカードが使えるかわからない。

などの点が挙げられる。

●まとめ

これまで合理化の具体例としてワンマン化（人件費削減が主）と自動改札化（機械化が主）を挙げてきた。どちらもここ10年で急速に広まり、既に地方赤字線区ではワンマン列車は一般的なものになり、東京、大阪などの大都市圏ではほとんどの駅で自動改札が設置され、利用者側にもこれらの合理化策への理解が深まりつつある。

しかし、ワンマン化も自動改札化も放ってはおけない問題点がある。合理化のための人員削減を行うときは、これまでと少なくとも同程度の安全性を保たなければならない。仮に鉄道事故が起こったとしても、その原因が人員の極端な削減であってはならない。また、機械に頼りすぎるのも危険であり、人間の目も必要になろう。そして合理化の結果が利用者にできるだけ負担をかけないようにしなくてはならない。ワンマン列車の乗り方や自動改札機の性能を鉄道事業者間で統一できればいいのだが、予算や鉄道事業者間の考え方の違いなどもあるだろうから、せめて現行のワンマン列車の乗り方や自動改札機の性能を利用者に対して分かりやすく知らせることが大事である。

→「第２章　路線の縮小・廃止」へ

Last modified: 2001.4.7

一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)

第１部 合理化の具体例

・安全面

・分かりやすさ

・運賃の取りこぼし

第１部　合理化の具体例