序論 物流の歴史


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現在の物流はおもにトラックによってカバーされているといっても過言ではない。 平成12年度の道路行政によれば、平成10年度の自動車による輸送は5,819,881トンでJRによる輸送は1,9724トンと大きな開きがある。 また見逃せないのが内航海運における516,647トンという数字である。 これらを貨物輸送分担率として表した図が図1である。 見れば分かるようにトラックが54.5%という圧倒的なシェアを持つ傍ら内陸水運が41.2%をカバーしている。 この事実について過去にさかのぼって考察する。

1 戦前の貨物輸送

トラック輸送が営業化されたのは明治42年12月で、帝国運輸という会社が第一号である。 しかし当時はまだ馬車が陸運の中心でトラックの輸送需要は極めて少なくこの会社も倒産することとなる。 大正12年〜13年ごろになると第一次世界大戦の特需景気、関東大震災後の復興輸送などを経てトラック輸送は戦前の最盛期を迎えるが、 その後日中戦争の勃発により民間の間で物資が不足するようになり、トラック輸送も軍事的なものを除き低迷することとなった。

トラック輸送とは対照的に鉄道・海運は日本における産業の近代化を正面から担った。 その中でも鉄道は戦前の輸送における主流をなした。 鉄道の貨物輸送は明治6年に開始される。 明治22年には東海道線が開通し、明治24年に東北線が全通すると鉄道による貨物輸送の環境が整ってきた。 ただ、全通当初は東海道の貨物輸送はそれほどではなく、 その頃の貨物輸送の中心はむしろ私鉄の北海道炭坑鉄道などにおける石炭等の輸送だった。

その後鉄道輸送は工業原料のみならず一般の貨物をも運ぶようになり、 明治40年の鉄道国有化を経て大正4年になると貨物による収入が旅客収入を上回るまでになった。 日本中に線路が張り巡らされる中、鉄道の輸送需要も増大し、戦時中も国主導で鉄道による輸送が推進されていたのである。 植民地においても南満州鉄道を始め多くの線路が敷かれ、植民地の産業発展に大いに寄与したことを考えれば、 戦前において鉄道が輸送の中心であったことにもうなずける。

2 戦後の復興期から現在

国内貨物輸送量は昭和30年度から平成10年度までの43年間で、輸送トンキロで818億トンキロから5516億トンキロ(6.7倍)、 輸送トン数で8.3億トンから64.0億トン(7.7倍)と大幅な増加を示した。

戦前隆盛を極めた海運・鉄道輸送は高度成長期も重要な地位を占めた。 特に海運は臨海工業地帯を中心に基礎資材型産業が発展した高度成長期に輸送量が大きく伸びた。 輸送トンキロで見た場合に諸外国に比べ日本は内航海運の占めるシェアが高く、これが海運業全体の更なる発展の基礎となっていた。 鉄道も戦後の復興における陸上輸送を担い、設備の拡張等を経て戦前以上の輸送力をもって農作物等の輸送を扱った。

しかし、昭和40年代後半の第1次石油危機以降日本の産業構造は大きく変化し、 それまでの重化学工業中心からよりより付加価値の高い組み立て加工業中心へと移っていった。 その過程で昭和50年代の初めまでの原材料のトンあたり輸送距離の増大に伴いそのシェアを高めてきた内航海運は、 最近では減少傾向がはっきりしている。 鉄道も海運同様、石炭・木材等の輸送需要が減少傾向にあったことと、他の機関に対し競争力が低下したことにより、 45年度を境に減少に転じ、平成10年度には229億トンキロまで減少した。

これに対し自動車運送は増加を続け、40年代初期に鉄道を抜き、 その規模は平成10年度には輸送トンキロで30年度当時の32倍に達し、シェアは30年度の11.6%から54.5%と4倍強に拡大している。 50年代に入ってからも、自動車交通はサービスの多様性・戸口性・機動性等に優れているという特性に加え、 一般道路の整備や高速道路の開業といった社会資本の整備による寄与も大きく、そのシェアを拡大している。 輸送トン数に至っては自動車運送は圧倒的で、平成10年度実績で総輸送量の90%以上を扱っている。

これらの自動車輸送は主に短距離輸送を受け持っていたが、図2に見るように長距離分野の輸送への進出も著しく、 最近では陸上輸送の600km以上の距離帯でも自動車輸送が約30%を占めるに至っている。 これは輸送トラックの輸送の長距離化と大型化に追うところが大きく、高速道路をはじめとする幹線道路の整備促進により、 自動車の持つ迅速性、機動性、確実性等の利点は一層発揮されるようになったことを示している。

このように自動車による貨物郵送が急増した背景には、 日本の産業構造及び消費構造の高度化・多様化に伴う輸送需要の増大と変化に対して、 また流通合理化という要請の増大に対して、空間的・時間的な随意性に優れた自動車が有効に対処しえたということがある。

更に、近年の貨物輸送量の変化を見た場合、トン数に大きな変化はないがトンキロは増加の傾向にある。 これは量については大きな変化はないが荷物が小口化したことにより輸送距離が増大したことによる。 荷物の小口輸送にはトラックが向いているのは明らかである。 よって自動車輸送はこれからも本質的な強みを保ち続けると思われる。

3 まとめ

この様に現状を見る限りは自動車輸送が圧倒的優位に立っている。 現代の物流の歴史は自動車輸送の歴史ともいえる。 その最大の要因は現代の産業の要請に巧みに応えてきたことが挙げられるだろう。 裏を返せば鉄道や海運は時代に合わなくなりつつあるということである。

ただ、この様な流れのまとめ方は効率面のみを考えたものであり、 経済至上主義のみでは対処できないこれからの時代においては別の見方が可能である。 そしてそのことがモーダルシフトの思想的源流となるのである。 これ以降の章でモーダルシフトの仕組みや具体例について述べていくが、 その根本には長い歴史を経て得られたこの様な思考があることを強調しておきたい。


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Last modified: 2001.12.17

一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)