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短時間に集中する学生達を一度に大量輸送が出来る鉄道は通学にとって最も適しており、 特に都市圏に於いては最も学生たちに利用されやすい交通機関である。
都市圏においては、 ほとんど通勤輸送と重なるため列車も頻繁に運行されており各個人に合わせた時間で通学することが出来るのが利点である。 また料金(定期券代)も安価であり、広域なネットワークによって学校の選択をより幅広くすることも可能となる。 地方都市から近隣の大都市の私立学校へ通う新幹線通学等もその一類である。 欠点としては、通学時間が通勤ラッシュと重なっているため、混雑の一要因ともなり、学生にとって快適な通学が出来なくなっている。
地方においては、たいてい通勤者は自家用車を使って出勤しており、 ちょうど通学時間あたりの列車の乗客は学生たちがほとんどである。
鉄道会社側(特に閑散線区)において通学需要は貴重な収入源であるが、 やはりコスト面が優先されるため、沿線全ての学校を押さえるのには無理が生じてくる。 列車の本数が少ないために、登校に使える時間の列車が一本しか無い場合や、 それぞれの学校の始業、終業時間と列車の時刻がずれてしまったりするケースも多い。 また中小私鉄や第3セクター路線等では通学代も高額のものとなり、学生にとって便利な交通機関とはいえなくなっている。
とはいえ、鉄道は自社の事情が優先される傾向にあり、学校側の要求を呑んでくれるような鉄道会社も少ないため、 鉄道による通学については現状の状態が続くと思われる。
一口にバスといっても、一般路線バス、コミュニティバス、スクールバス等があるが、 ここでは主に一般路線バスについてとりあげる。
バスの一般的特徴としては、学校に合わせたダイヤを設定でき、また学校のすぐそばまで運行できる等、 鉄道より柔軟な運行ができるということである。 しかし、鉄道より輸送量が圧倒的に低いため完全に学生達を捌ききるには、何度も往復させなければならなくなる。
都市圏においては、ほとんどの場合が他の交通機関との連携で使われる。 学校の場所が何処にあるかにもよるが、朝のラッシュ時などは学校近辺に住む通勤者を駅まで運び、 その後入れ替わるように列車でやってきた学生達を乗せてまた学校へ戻るなど、 バスの先ほどの欠点も補われ無駄のない運行が可能である。 乗客も多いためバスの運行頻度も多く、列車との接続時刻も比較的短い。
地方ではバスのみで使われることも多くなる。 先ほどの都市圏の場合と違い、需要がほとんど学生やお年寄りだけという場合が多いため、 通学時には、学生達を学校まで運んでいった後、また戻るときに乗る乗客がほとんどいない場合が多く、無駄が生じてしまう。 また、休校時(日曜、夏休みなど)にはほとんど運行されておらず、休日などに学校に用がある場合などは非常に不便であり、 極端な場合、バス事業自由化や需給調整廃止によって、採算がとれなくなった路線が、そのまま廃止になってしまうこともある。 また都市圏にもいえることだが、登下校時ではバスの乗客の大部分が学生であるため、 他の乗客達に迷惑をかけるなどのマナーも問題になってくる。
鉄道より融通が利く通学交通手段とはいえ、完全に学校側の事情に合わせることは無理であり、 スクールバスを運行する方が学生にとっても、バス会社にとっても有益なところもある。 必ずしも学生にとって身近で便利な交通手段とはいえないところも多いが、 最近では鉄道に比べて柔軟に対応が出来るというバスならではの特徴を生かして、 学生達に合わせたサービスを展開するところも増えてきている。 その具体例をいくつか挙げてみる。
静岡県浜松市を中心に運行する遠州鉄道バスでは1986(昭和61)年から 「モーニングダイレクト」と呼ばれる朝の通学時間帯専用のバスを運行している。 浜松市のバス路線網は浜松駅を中心とした一極集中型の路線網になっている。 バスを利用する中高生は自宅から一度浜松駅へ出て、そこから乗り換えて各学校へ向かう。 しかし、こうした利用方法ではV字型とでも言うべき大回り乗車を余儀なくされる場合も多い。 そこで遠鉄バスでは市内周辺部の主要な住宅地から中学校・高校へ乗り換えなしでショートカットして直通する系統を設定し、 これを「モーニングダイレクト」と命名した。
路線の設定に当たっては各中学校・高校から提供された居住地データを基に、 どのルートを設定すればバス1便当たり40〜50人程度の利用客を見込めるのかが調査された。 各ルートともに登校日に毎朝1〜2便が設定されている。 定期券は従来の乗り継ぎよりも割引率を上げた専用定期券となっていて、 帰宅時には(主に浜松駅を発着する)一般系統を乗り継いだ利用が可能である。
こうしたバスが新設された背景は遠鉄バスが浜松市営バスを1984〜86年にかけて移管を受けたことに始まる。 バス事業者が遠鉄に一本化されたことで、従来は市営バスが競合相手であったものが、 マイカー・自転車こそが競合相手だという意識が芽生えたのである。 結果、モーニングダイレクトの設定はバスの利用を敬遠して自転車を利用していた学生を再びバスに呼び戻すことにつながった。
各学校の学生以外の一般客も利用できるが、利用の大半は学生である。 一般的に学校が設定するスクールバスと違うのは、複数の学校の通学需要を1つのバスで受け持っていることである。 少ない需要を集約することによって効率的な運行ができる一般路線バスのメリットが発揮されている。
このバスの利用は定着しており、私立高校ではモーニングダイレクトが設定されていることが 少子化の中で学生確保につながるとあって、増強が要望された。 現在では26便が設定されている(うち20便が浜松駅を経由せずに短絡、6便は浜松駅を経由しての住宅地から各学校への直通運転)。
また、オレンジエクスプレスと称した東名高速経由の通勤および通学用急行バスも三ケ日〜浜松駅間で運行され、 浜松北高校の長距離通学者の足としても利用されている。
全国的に、雨・雪の日はバスの利用者が増える傾向がある。 これは普段自転車やバイクを利用している通勤通学客がバス利用に転移するからである。 特に中学・高校においては自転車通学生の比率は高く、その分バス利用者の一時的増加も激しくなる。 こうした中で遠鉄バスをはじめ、北陸鉄道・静岡鉄道・宮崎交通・京成電鉄などが「レイニーバス」と呼ばれる運行方式をとっている。
これは雨天時に規定ダイヤのほかに臨時の増発便を運行することで、積み残しの発生を防ぐと同時に混雑緩和を実現している。 運行の決定は「前日に発表された天気予報で降水確率が50%以上」とされていることが多い。 実際に雨が降ったかどうかではなく、こうしたルールができているのは、現場での判断が単純化されることに加えて、 利用者にとってもあらかじめ増発運行されるかどうかが事前にわかるからである。
群馬県の日本中央バス(前橋駅−市の木場線)では後部に自転車が積載可能なバスが運行されている。 沿線は赤城山の南麓に位置していて前橋からは完全な上り勾配となる。 朝は沿線からの通勤通学客の多くが下り勾配で自転車を利用する。 しかし、帰りは上り勾配であり、狭い道幅もあいまって決して楽にのぼることはできない状況だった。
そこで日本中央バスでは中型バスの後部に自転車を5台固定できるスペースを設置。 出かけるときは自転車で、帰るときはバスでという利用スタイルを作っている。 現在コスト的に見合うものにはなっていないが、このバスの導入によって地元の人にバスの存在をアピールすることが実現し、 補助金などの理解も得られやすくなっているという。
今までのように、ただ乗ってもらうだけのバスはもはや時代遅れであり、それは通学においても同じである。 バスで通学できる程度の距離である場合、バスがよほど不便であれば、たとえ通学客であろうと、 自転車、バイクでの通学や、自家用車での送迎に移ってしまうことも大いにあり得る。
そのような状況の中、 このようにバス会社が独自の工夫を凝らしてサービスを提供する事例が増えてきているのは好ましいことである。 これらの動向がさらに他の会社にも広がって、バスが学生達にとって便利な交通手段になることを期待したい。
これらも重要な通学手段の1つである。 生徒が自由に通学時間を設定できる点ではもっとも適しており、また個人個人でルートが決められる点も大きい。 一方これらの問題点は、通学途上の安全であり、歩道がちゃんと整備されていないところや、交通量の多い道路、 またヘルメットの着用などしっかりと交通マナーを指導されてないところでは、事故を起こしてしまう危険もある。 また天候に左右されやすく雨、雪の日には利用不可となるので、公共交通か自家用車の送迎など代替手段が必要となる。 また直接自宅と学校を結ぶ場合を除いて、ほとんどが自宅から最寄りの駅、バス停留所の間を利用する場合が多いが、 主に駅前での自転車の置き場所も大きな問題となる。 (放置自転車の一因となる)
最後に、学生にとって安全な通学路を整備することも重要であるが、この話に限らず学生側にもある程度の問題点は存在する。 こればかりは、学生達に通学時はすでに自分たちも社会の一員であるという自覚を持ってもらって、 マナーを守って通学を心掛けてほしいものである。
この3つの他にも、様々な通学手段が考えられるが、それらは特殊な場合が多いので省かせてもらった。 (離れ小島から船で通学するなど)
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Last modified: 2003.2.4
一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)