第2部 通学手段確保のために


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第3章 通学費

通学問題を語るうえで、通学費の問題は欠かせない。 既存の鉄道路線が廃止される時、この問題は必ずといっていいほど出てくる。 鉄道が廃止されると通学費が2倍、3倍になり、家計の負担が重くなるといったことがよく言われる。

通学費は、単に学校までの通学距離が長くなるにつれて高くなるとは限らず、交通手段によって大きく異なってくる。 概して鉄道よりバスのほうが高いようである。 ただ、鉄道事業者のなかでも安い部類に入るのは、大手私鉄やJRくらいである。 特に大手私鉄の通学定期券はもっとも安い部類に入る。 大手私鉄やJRでは1ヶ月定期券の価格が1万円を超えることはあまりない。 せいぜいよほどの遠距離通学者に限られる。 例えばJRの場合、1ヶ月定期券(高校生・本州3社内幹線利用)の価格が1万円を超えるのは49キロ以上利用する場合である。 反面、中小私鉄や旧国鉄を引き継いだ第3セクター線はバス並に高めである。 同じ鉄道であるが、JRと比べた場合、特に長距離の定期券の価格は何倍にもなるケースが目立つ。

バスも中小私鉄や第3セクター線と同様、大手私鉄やJRより高く、 1ヶ月の交通費が1万円を超えることはなんら珍しいことではない。

鉄道事業者名 運賃 1ヶ月定期運賃
JR 東京電車特定区間
本州3社幹線
本州3社地方交通線
北海道幹線
北海道地方交通線
160円
190円
200円
210円
220円
3,780円
4,150円
4,410円
4,780円
5,070円
大手私鉄 京浜急行
阪神電鉄
190円
230円
2,660円
3,350円
中小私鉄 神戸電鉄
富山地方鉄道
鹿島鉄道
380円
510円
440円
7,030円
12,840円
13,420円
公営 横浜市営地下鉄 260円 6,240円
第3セクター 山形鉄道
阿武隈急行
380円
380円
10,260円
11,320円

表2−3−1 鉄道事業者別の高校生1ヶ月定期運賃比較(10キロ乗車の場合)

キロ数 JR3社幹線 京浜急行 阿武隈急行 鹿島鉄道
10キロ 4,150円 2,660円 11,320円 13,420円
20キロ 6,830円 3,750円 16,210円 24,790円
30キロ 7,470円 4,360円 20,180円 ※30,180円
40キロ 8,460円 4,840円 24,470円 ---円

表2−3−2 鉄道事業者別の高校生1ヶ月定期運賃比較(4段階のキロ数)
※鹿島鉄道全区間27.2キロを乗車の場合の1ヶ月定期運賃。

運賃 1ヶ月定期運賃
200円 7,200円
300円 10,800円
400円 14,400円
500円 18,000円
600円 21,600円

表2−3−3 バス事業者の標準的な高校生1ヶ月定期運賃
(割引率40%で計算)

このように、単純に金額で見れば、通学費の負担が特に重いのは地方のバスや中小私鉄、 第3セクター線などで長距離通学している学生ということになる。 都市部でも長距離通学している学生はいるが、割安な大手私鉄やJRの定期券を利用している場合が多く、 距離の割にそれほど通学費は高くならない。

地方のバスや中小私鉄、第3セクター線などで長距離通学している学生の中には、1ヶ月の通学費が2万、3万に届くケースもある。 これは公立高校の1ヶ月の授業料を上回っていて、ここまで来ると交通費の負担がかなり重く感じるようになる。 昨今の不況で、この交通費の負担を重く感じる人はさらに増える傾向にある。

そのようななか、学校までの公的交通機関があるにもかかわらず、あえて自転車で通学する学生も見受けられる。 鉄道が廃止になったのを機に自転車通学に変更したケースもある。 なお、自転車で通学する人の中には、費用面以外にも、公的交通機関の本数が少なく不便であるといった理由で自転車を使う人もいる。

しかし、長距離通学者には学校まで自転車で通学するということは無理である。 鉄道廃止後、通学費が一気に上がり、または通学時間が長くなり、遠距離通学の学生が減った学校も見受けられる。 このようななか、自治体の中には通学費の一部または全額補助を行っているところもある。 このような補助はどちらかというと地方に目立つ。 以前は鉄道路線があり、のちにバス転換された路線では、通学費の負担が急に重くなるわけで、補助をする場合がある。 しかし、このような補助を行っている自治体はまだまだ少数である。

最近は特にバス事業者を中心に、通学生を呼び込むため、 従来発売してきた定期券を、さらに使い勝手のよいものに変えようとする動きが各地で見られるようになってきた。 従来定期券といえば1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の3種類の定期券が主流であった。 ところが、1年中使用する通勤定期券ならばともかく、間に長期休暇が挟まる学生の場合、 このような定期券は必ずしも使い勝手のよいものであるとはいえなかった。 そのため、以前から1学期定期券を設定している事業者は多い。 これは従来の「月」ごとの定期券ではなく、「学期」ごとの定期券で、無駄なく定期券を使用できるとおおむね好評である。 また、地方を中心に、通常の定期券の半額で購入できる通学片道定期券も発売しているところもある。 これは、学校までの公的交通機関が貧弱である、または自家用車で通勤する保護者がいて、その途中に学校がある場合、 などの理由で、行きまたは帰りのどちらかを自家用車で送迎してもらっている学生にとっては使いやすいものである。 後者の場合は通学費の負担もわりあい軽く済む。

これまでは上に挙げたような種類の定期券で推移してきたわけだが、 昨今の長引く不況で消費者のいっそうの節約志向が強まり、事業者はさらなる対策に迫られている。

今年の春から本格的に始まった学校完全週5日制にあわせて、通学定期券の値段を下げた事業者は多い。 これは、登校日が減ったことにより乗車回数が減り、これまでの定期券の価格では割高感が否めない状況にあるからである。 また、利用可能日を月曜日から金曜日までに限定した定期券を設定した事業者もある。 中には、定期券自体の値段を大幅に下げた事業者もある。 例えば、宮崎交通(バス)では今年の春から「CAM・PASS−mini」という定期券を発売しているが、 これは高校生向けに設定したもので、3ヶ月定期の値段で6ヶ月定期が買えるという新しいタイプの定期券である。 そして、これまで自宅最寄りの停留所から学校最寄りの停留所間に限られていた通学定期が、 いくつか先の停留所まで買えるようになった。 なお、宮崎交通では高校生のほか、大学生や中学生に対しても割安な定期券を発売している。 また、加越能鉄道(バス)は半月通学定期券という変わった定期券を発売している。 例えば3ヵ月半使用したい時などに組み合わせて使用でき、なかなかきめ細やかであるが、利用実績はいかほどであろうか?

以上のように最近ではさまざまなタイプの定期券が出てきている。 利用者の立場にたってみれば、選択肢が増えたわけであり、情報さえしっかりつかめれば、それほど分かりづらいものではない。 利用者は自分の利用実態に合わせて定期券を選べることができるようになり、よい傾向ではないかと思う。 ただ、これらの取り組みがなされていないところはまだ多い。 いまだに高額の通学費の重圧に悩まされているところもある。

これまでは、通学定期券について述べてきたが、最近は運賃自体の値下げも目に付くようになってきた。 特に、長距離を走るバスに対して運賃の上限を定める傾向は各地で見られる。 これは学生の中でもとりわけ通学費の負担の重かった長距離バス通学者にとっては朗報である。 ところによっては1ヶ月2万円を超えるような通学定期券もある。 運賃が下がればそれにあわせて定期券の値段も下がる。

ところで、このような取り組みは鉄道事業者よりバス事業者の方で多く行われている。 これは、鉄道通学者よりバス通学者の方が、通学費の負担を重く感じている人が多いからであろう。 それと、事業者側の取り組みについては、深刻な乗客減に苦しんでいるバス事業者の多さがうかがえる。 バスの柔軟性もこのような取り組みができる背景にあるのだろう。


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Last modified: 2003.2.8

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