送信者: "Edward Chang" 5組 張 漢卿
件名 : 唱歌「星の界(よ)」
日時 : 2006年4月6日
尋常小学校一年の教科書を未だにお持ちになるとは驚きました。(あれは実は復刻版なのです。山崎註)
私は外地を転々と回ってきたので、残念ながら大学の教材までも遺失しました。
手元の古い本では岩波文庫「日本唱歌集」(1958 堀内敬三編)だけが
童年を思い浮かべる唯一の手づるになりました。
この本に依ればシューベルトの子守歌を「眠れ、 眠れ、母の胸に」と訳したのは、
フランス文学の権威内藤濯先生だったとか、
「野なかの薔薇」、「ローレライ」など多数の訳詞で有名な近藤朔風 は、
東京外語で独、英、伊語を学び、かつ東音選科 で声楽を研究した秀才だったが、僅か35歳で世を去ったとか、
興味深い注解が盛り込んであります。
私が今でも好んで歌う「星の界」は、
アメリカの教会で最も有名な讃美歌(註1)の一つを、
杉谷代水という作詞者が宗教抜きの唱歌に替えたもので、
そのお蔭 で明治43年文部省検定の「教科統合中学唱歌」に編入されて居ります。
「月なきみ空に、きらめく光、嗚呼その星影、希望のすがた。
人智は果てなし、無窮のおちに、いざ其の星の界、きわめも行かん。」
の歌詞は宇宙の美しさに憧れ、その神秘の探究を目指す科学者の世界観を端的に表しています。
インマヌエル カントが「我が頭上に星きらめく大空」と言った時の心境はこれに近いものが有ります。
哲学者としてのカントが、近代科学の行くべき途 をいち早く察知したのは当然ですが、彼と同時代の人でありゲーテの親友でもあった詩人 Schiller
(シラー;旧称シルレル)は、その世界観の中心に神を想定しています。
ベートーベンがシラーの詩「歓喜」を「第九」の合唱曲にした部分には、宗教的な詩句が頻繁に出て来ます。
「はらからよ、星きらめく被いの上高く、げに恵み深き父おわしまさん」
(”Bruder! Uberm sternen Zelt muss ein liebe Vater wohnen")
20世紀の後半にかけて、アメリカの宇宙探究は未曾有の発展を遂げ、
ロケットによって惑星、衛星の近接撮影まで出来るようになりました。
それにも拘わらず、
宇宙は唯一神の手によって創造され、
すべての出来事が神意に基ずくという基本主義教派の信仰が、日に日に強くなっています。
進化論と創造論の争いが激化して、
州によっては,学校の教科書を審査する教育委員会が進化論を異端視して、
創造論を教えよとの通達を出して居ります。
その人たちが団結の力を借りて、
アメリカの政治、軍事、外交を強引に操縦しているのを見ると、
アメリカの将来はどうなるやらと気掛かりになります。
ED