明けましておめでとうございます。
恒例の「本年世相を表す漢字一文字」の2007年版は、「偽」が選ばれたとのこと。
その年に相応しい漢字一文字を日本漢字能力検定協会が毎年募集で選び、京都清水寺の森貫主が大きな額に揮毫し奉納する。2006年は悠仁親王誕生という希望と生命感溢れる「命」から、2007年は一転「偽」となり、暗い世相を反映する。
食品賞味期限偽造、中身・生産地詐称疑惑等から実に云い得て妙の漢字である。
思い起こすだけでも、白い恋人、雪印、不二家、赤福、吉兆等と一連の賞味期限偽造、中身・生産地詐称が続くと、一体何を信用してよいか分からなくなる。
一方食品賞味期限表示には過剰とも思える行き過ぎもあるのは確かである。表示義務がなかった頃には何の問題もなく販売・消費されていたものが、厳しすぎる期限設定のために、コンビニ等の食品が惜しげもなく、廃棄処分されるのは、食料の輸入依存率が半分以下の我が国として、勿体なく憂慮すべき姿である。賞味期限を過ぎても、消費期限以内なら値引等で合意の上有効活用が図られるべきではなかろうか。そうすることで大事な食品の有効活用も進み、賞味期限張替え等の違法行為も減るであろう。
名門料亭といえば昭和の最後の4年間を大阪勤務で過ごした時に、忘れられない苦い思い出がある。長年の売込み目標の某大手との新規取引が成立、その晴れの祝いの宴席は両社代表出席の下、名門料亭で設定することになった。
転勤間もない私は大阪の事情は分からぬまま初めて所謂名門老舗を選んだ。
店に入ると広い立派な庭に面した座敷の宴席で、先ず女将の挨拶を受けた。曰く「当店は京料理職人初代○○が江戸慶長年間に創業、特に旬の魚を当店秘伝のタレと味付で好評を戴いております。・・・・」と。
宴会が始まると次々普段お目に掛かれぬ料理が出てくるが、なるほど夫々の料理は素人の口にも合って美味い。その内に例の刺身のタレが登場。ちょっと刺身につけて味わうと、何か「ドロン」とした甘味でどうもキレが悪いようだ。しかし食通を自認する主賓は「流石秘伝のタレは旨いですな。これでお造りの味も一層引き立ちますわ。分かりますかな?・・」とのお褒めの言葉で内心変だな、と思うも一同得心顔で、「旨い!」ということになった。が若手担当が「このタレは何か変では?」と疑問を投げ「ちょっと確認してきます。」と異議を申立て席を立つと宴席は「若い者には伝統のこの味の良さが分からないのかな?」と笑草となり、一頻り京古来の伝統、文化、秘伝の味の話題で盛り上がった。
暫くして、事実が判明、一座は大笑いとなった。新米職人がタレを間違えた器に入れ、仲居もその誤りに気付かず、刺身のタレと後の肉料理のタレを逆にセット、要するに刺身にソースを付けて出してしまったとのこと。
並みの店なら誰でも直ぐ誤りに気付くが、名門を過大評価する故に笑えぬ喜劇が起きた。世間の評判・ブランド・見掛けだけでなく、先ず自分の判断、味覚を磨くことが大事である教訓を得た次第。ブランド(brand)も盲信すればブラインド(blind)ともなる。要は本人自身の判断が重要で、真贋が問われている。
「偽」といえば、偽ブランドでは世界で一番カモにされているのは日本とのこと。国民性を反映するだけに、笑って過ごすべきではなく、心したいものだ。
主に香港等東南アジアの一角で密造されている「ロレックス」の時計、「ルイヴィトン」「グッチ」「ヴァレンチノ」「バーバリー」「エルメス」「クリスチャンディオール」「ティファニー」等一流ブランドを模した装身具類の偽ブランド品は後を絶たない。偽物と知らずに大金を巻き上げられるのは同情するが、本物と区別が出来ず騙されるのは自己責任で仕方がないことだ。一方偽物と知った上で、安物で飾り他人を騙そうとする人の心は寂し過ぎるのではなかろうか。
そんな偽物を模する中にあって、かつては無名の製品が地道に実績を積みその道を極めて、「ブランド」を創っていく例もあり、創業の姿に感銘を受ける。
かつての「NATIONAL」、「SONY」等も無名からの出発だった筈だが、今では新規ブランドの創設は至難の技となってきている。その中にあってある若者向けの新しいブランドの立ち上げの実例には、新鮮な驚きと敬意を感じる。
「4℃」(よんどしー)のブランドはおじさん達には全く無名であるが、特に自立心に目覚め自分の意思を大事にする若い女性には今や一番人気のブランドに成長している。数年前娘のプレゼントに指定され初めて専門店で知ったのであるが、団塊の世代の田村英樹社長が1970年、若い女性の本物の装身具開発に焦点を絞り創業。「自分の意見をしっかり持て」の社是で、水の密度が一番高いのは4℃であることから、質の高さを目指すという極めてユニークな商標を選び創業。現在では資本金10億円、売上200億、従業員800人に成長、今や若手女性一番の人気ブランドに成長。既存有名ブランドに肖るのではなく、自分でブランドを育て、創るという、今の若手女性の気概にも励まされる思いである。
私は長年、詩吟・漢詩に親しんでいるが、霞朗詠会の創立者:鬼澤霞先生の教えに感銘を受けることが多い。嘘、偽りの横行する世の中では人格を磨き、外見でなく自分の心眼で判断、「誠」に処することこそ大事ではないだろうか。
ただ誠その誠こそ世に処する 誠の道ぞ我が生きし道
霞会坐右銘 鬼沢 霞
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