日本で陪審制度が導入された頃
「先ず第一に昨年施行されましたる陪審法の実施一年の成績に徴しまするに其局に当たられる各位の御尽力に依りまして、幸に其結果は良好なりしものの如く思はれるのであります。
施行前に私共の懸念して居りましたる所の陪審員の出頭又は評議の結果如何であろうかと思ひました所が、其出頭率は極めて良好であるのみならず、選ま(ママ)れて法廷に列席する所の陪審員の真摯なる態度、熱心なる評議は、思ったよりも成績が宜いやうに考へられるのでありまする。
唯陪審事件の総数が百数十件の中に陪審の構成を見たるものが五六件あったやうに考へまする。それと放火未遂事件であるとか、或いは殺人事件であるとか云ふ事件に対しまする諮問に対する陪審員の答弁と云ふものは、然らずと云ふ点が多かったやうにも考へられまするが、併しながらそれとても裁判所は陪審員の答申を採択して裁判をしている点から見れば、陪審員の評議必ずしも失当ならずと考へられますので、是又大いに意を強うするものがあると考へます。
唯陪審の事件の数と云ふものが、前に本省に於いて想定していた件数を大いに裏切って居る。即ち其事件が甚だ少い。法定陪審事件に於きまして、被告人の辞退するものが多いのである。請求陪審事件の如きは殆んど無かったと云うても、敢て過言でない位である。此の如きは果たして如何なる原因に因るものであるのか分かりませぬけれどもが、恐らくは陪審判決に対しては、上訴を許さぬと云ふことも、一の原因でありませうけれども陪審制施行当初に方りまして、陪審員の評決の上に不安を感じたと云ふ点も、或いは其因を為して居るか知れぬと思ふのであります(以下、管理者入力作業中)」
司法省調査課「司法研究第11輯・第八回実務家会合」(1930年)169頁
「渡辺司法大臣の挨拶」より
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