五.質疑応答(続き)

質問
 「弁護人の証拠収集の仕方はどうなっているのか。」
回答
 「独自にしてよいことになっている。現行法同様、証拠は、法廷で弁護人側がいきなり呈示してもよいことになっている。勿論、検察は、予め出しておかねばならないが。そのため、弁護士は、担当裁判官の顔色を見つつ判断して出すことになる。」

質問
 「被害者についての規定は何を参考としたのか。」
回答
 「先ず、日本を含め、世界的な研究の成果を参考とした。日本の場合は、慶應大学の宮沢浩一博士の研究などを参考とした。それと、ずっと被害者軽視が問題とされてきた中国独自の理由とによって調整した。このことからも運用こそが要諦になることが分かる。」

質問
 「拘留要件の緩和について、もっと詳しく説明して戴きたい。」
回答
 「現行法では、身分不明もしくは連続で重大事件を犯した疑いの有る者のみ拘留できるということになっていた。だが、新法では、正しい氏名・住所を言わず、身分が不明である者の拘留も認めることにした。これは、警察慣行である収容において従来から審査要件とされてきたものを追認したものである。もっとも、黙秘権との関係で問題となるだろうが、これらは
 寧ろ、これから実施に移してからの問題であろうと考えている。」

質問
 「では、嘘をついても拘留されることになるのか。明らかに嘘であった場合に、被訴追者に酷ではないか。」
回答
 「やはり、主観的要件としての黙秘と、客観的要件としての身分不明との両方が必要とされるべきであり、客観的に身分が明らかなら嘘の住所でも拘留してはいけないと考える。つまり、嘘の住所を述べることは、『逃亡の恐れ』とは考えないのである。」

質問
 「弁護人が附いている割合はどれくらいか。」
回答
 「弁護士の人数次第だが、農村では殆ど附かない一方、大都市では殆ど附くとされる。中国福建省の場合で、一九九四年には、九五%の事件に弁護人が付いていたといわれている。
  ただし、現行法での弁護人は、調査官のようなものであって、友人や法定代理人などがやることも多いということに注意していただきたい。」

質問
 「一九九五年十月に中国に行き、『冤罪は大した問題ではない。寧ろ、刑が重すぎるのが問題』であると聞かされたことがあるが、本当か。つまり事実について争っても認定されず、益がない。仕方ないから、刑の軽重のみ争うことになる、というのは本当か。」
回答(肖賢富)
 「量刑の問題については、歴史的背景など、法以外の要因によるものであると思う。事実認定の問題については同意できないものの、複雑化する犯罪は簡単には分からないことも事実である。」

質問
 「起訴免除に替えて不起訴の拡大を採用した理由を、両者の違いに触れつつ、分かりやすく教えて欲しい。」
回答
 「中国の起訴免除は、日本の起訴猶予(手続的意義のみ)とは異なり、実体法的な意義をも併せもっている。そして、実体法的意義とは、有罪が確定するということである。そのため、起訴免除は裁判権の侵害であるか否かを巡り議論になってきた。他方、不起訴は、量刑の情状によって判断されるものではない。刑法十条の規定の中には、行為態様が良ければ犯罪としないことあるが、これを犯罪要件のようにした。つまり、犯罪の一部が犯罪でなくなることで、不起訴とするのである。
  被害者側は不起訴処分に不服申立できるので、このような制度にしても不都合はないのである。」
                                      以上