ヘンゼルとグレーテル

 皆さんが幼少の頃一度は耳にしたであろうグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」を題材にしたこのオペラは、子供をかまどにくべて食べようとする恐ろしい魔女のイメージよりは、子供の夢をかきたてるお菓子の家のイメージに近いと言えるでしょう。初演されたのは1893年12月23日のことでした。原作の‘残酷さ’をなくした分かりやすいストーリーは大人にも子供にも喜ばれ、親しみやすく楽しいオペラとして大好評を博しました。以来、今日でもクリスマスにはヨーロッパ各地の歌劇場でこのオペラが上演されるのが定番となっています。
 それまでオペラの題材はヴェルディの「アイーダ」のような戦争もの、中世の人々の暮らしを描いた歴史もの、また神話などが多く、特に19世紀ドイツを席巻していたワーグナーのオペラは抽象的で難解なものでした。そうしたオペラ世界において童話を基にした家族みんなで気軽に楽しむことができるこのオペラはとても貴重な存在であり、以後「メルヘンオペラ」というジャンルを確立したのです。
 作曲者であるエンゲルベルト・フンパーディンク(1854〜1921)は実妹の依頼として、家庭劇の合間の曲として作曲したようです。しかし次第に彼自身がこの題材を気に入り、オペラ用に全曲書き直して完成させました。内容は子供向けであっても作風はとても本格的、師匠のワーグナーの影響を受けた重厚なオーケストレーション、しかしどこか明瞭なファンタジーあふれる音楽です。今回演奏する序曲は、オペラ中の聞きどころ、名場面に流れる音楽の詰め合わせとなっており、序曲だけでも十分にこのオペラのメルヘンな世界を楽しむことができます。

 曲は4本のホルンによる柔らかくゆったりとしたメロディーに始まります。それをバイオリンが引き継ぎ、トロンボーンと高音木管楽器が発展させます。だんだん旋律が小さく美しくなったところで突如としてトランペットによってわんぱくなヘンゼルのテーマが奏でられます。その後そのテーマを伴奏にしながら優美な旋律がヴァイオリン、チェロなどにより歌われます。一度冒頭のテーマがはさまれた後は舞曲風に展開し、オペラに登場する森の妖精が暗示されます。次第に盛り上がり、tuttiで魔女を倒した時の喜びに満ちた主題が流れたあと、次第に賑やかさが失われ、ppで再び冒頭のテーマが名残惜しむように歌われます。終わりの堂々としたC durで舞台となるドイツの鬱蒼とした森が現れ、物語が始まるのです。







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