イチリンソウ
西キャンパス正門を入ると掲示板が並んでいる。掲示板の間を縫って左側の林に入る。夏は薄暗い林だが、落葉樹が多く、この季節は意外と明るい。光が地面に届いている。あたりを見回すと、イロハモミジの大木に寄り添うように、ふかふかした鮮やかな緑が目に入る。その塊の上に、なんとも清楚な花が群れて咲いている。よく見てみる。1つの茎に3つの葉がつき、その上に咲く白い花は一輪。イチリンソウだ。
雑木林には、光が林床に届く早春から木々が緑に覆われ光が届かなくなる春の短期間に生活を集約させた多年草が多く見られる。こぞって美しく、目立つ花を咲かせる。「スプリング・エフェメラル(春の短い命)」とか「春の妖精」と呼ばれる。セツブンソウ、フクジュソウ、アズマイチゲ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、カタクリ、アマナ、エゾエンゴサクなどがその一員。もちろん、イチリンソウも「春の妖精」で、昔は夏の前に枯れるため、と呼ばれた。キャンパスの森が雑木林の面影を残す証をこの季節に確認できる。
スプリング・エフェメラルの花はなぜこぞって春早く咲き、しかも身体に似合わぬ大きな美しい花を咲かせるのか。初夏になると樹木が一斉に花を咲かせ、虫を呼び寄せる。だから虫を巡る誘致競争を避けるためにも時期をずらして咲かせるのか。また、花は単独で咲かすより、集まって咲いたほうがよく目立つ。林床に群がって咲くと、今度は草同士の競争になる。花たちは目立とうとして、一つ一つの花をさらに大きくし、装いを凝らして美しく競い合っているのか。美しく群れて咲くのは生きるための戦略なのかもしれない。
やがて新緑の緑濃くなり、枝一杯に葉を展開する季節になると、林床への光が閉ざされる。イチリンソウはその地上部をすべて枯らし、春先まで長い休眠に入る。
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