第3部 今後の課題・展望


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第3章 移動が制約される人々への配慮

1. 高齢者や障害者に対するバリアフリーの意義

交通機関をバリアフリー化することの目的は、すべての人にとって安全で利用しやすい公共交通システムを作り出すことである。 ここでは社会的に弱い立場に置かれている高齢者や障害者に対するバリアフリーについて考察していくことにする。

今日の日本では、他の先進国に類を見ないほどの勢いで高齢化が進行している。 65歳以上の高齢者人口は1998(平成10)年の時点で2051万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は16.2%となっている。 2000(平成12)年には高齢化率は他の国々を抜いて世界の最高水準になり、今だかつて他のどの国も経験したことがないような本格的な高齢社会が到来することが予測される。

年次 高齢化率(%) 高齢者人口 総人口
男性 女性
1995(平成7)年 14.6 18,227 7,514 10,763 125,570
1998(平成10)年 16.2 20,510 8,520 11,990 126,490
2000(平成12)年 17.2 21,870 9,138 12,733 126,892
2005(平成17)年 19.6 25,006 10,584 14,457 127,684
2010(平成22)年 22.0 28,126 11,938 16,188 127,623
2015(平成27)年 25.2 31,883 13,645 18,238 126,444
2020(平成32)年 26.9 33,335 14,219 19,116 124,133
2025(平成37)年 27.4 33,116 14,017 19,099 120,913
2030(平成42)年 28.0 32,768 13,803 18,964 117,149
2035(平成47)年 29.0 32,787 13,818 18,969 113,114
2040(平成52)年 31.0 33,726 14,344 19,382 108,964
2045(平成57)年 32.0 33,497 14,337 19,160 104,758
2050(平成62)年 32.3 32,454 13,906 18,548 100,496
表3-3-1 65歳以上人口の将来推計 (「高齢化白書 平成11年度版」より作成)
人数の単位は「千人」

このようにデータから日本では高齢化社会が進展していくことが分かるが、このことによって移動制約者の割合が高まることが考えられる。 その結果として、今後は今までよりもより多くの高齢者や障害者が社会に出て公共交通機関を利用する機会が増えると予想される。

こうした状況に対処するために、高齢者や障害者のためのバリアフリーについての十分な施策がなされるべきである。

2. 施設面のバリアフリー

高齢者や障害者のためのバリアフリーについては主に施設面とサービス面の両方の観点から考察できると思われるが、それぞれについて順番に考察していくことにする。

施設面のバリアフリーに関しては、まず考えられるのは公共交通機関のターミナルの整備である。 具体的には交通ターミナル内にエレベーター・エスカレーター・スロープを設置して、ターミナル内の垂直移動に対する対策を講ずることが中心であろう。 鉄道駅におけるエレベーター・エスカレーターの整備に関しては、運輸省が1993(平成5)年に「鉄道駅におけるエレベーターの整備指針」と「鉄道駅におけるエスカレーターの整備指針」を定めて、エレベーター・エスカレーターの設置の指導が行われた。 1997(平成9)年度末の時点の設置率では、JR・大手民鉄・営団地下鉄・公営地下鉄のすべての駅についてエレベーターは9.0%、エスカレーターが16.2%となっている。 エレベーター・エスカレーターの設置に対しては、交通エコロジー・モビリティ財団から交通施設利用円滑化対策費補助金として事業費の20%の補助金が出されることになっている。 従って、この制度を有効活用した更なる計画的な整備促進が求められる。

交通ターミナルの整備としては、他には音声ガイドアナウンスや誘導・警告ブロックの設置、手すりへの点字による案内の整備、プラットホームでの転落防止のためのホームドアの設置、ホームと電車との隙間の解消などが考えられる。 このうち誘導・警告ブロックについては事業者ごとに色の統一性が図られていないなどの問題があるため、色やサイズの統一や、コンコースからホームまでの連続性などにも配慮する必要があるだろう。

施設面のバリアフリーについて他に考えられるには、主にバス車両のバリアフリー化である。 具体的にはノンステップバス・リフト付きバス・スロープ付きバスを導入して、高齢者や障害者がスムーズに乗り降りができるようにすることである。 バスは高齢者や障害者にとって最も身近な交通機関であるため、彼らが利用しやすい車両の導入が求められる。

以上のように施設面のバリアフリー化についていくつか見てきたが、高齢者や障害者が公共交通機関を利用しやすいように十分な整備が行われておくことが重要である。

3. サービス面のバリアフリー

前節では高齢者や障害者に対する施設面のバリアフリーについて見てきたが、ここではサービス面のバリアフリーについて見ていくことにする。

サービス面のバリアフリーについて、近年注目されているものの一つとしてSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)というものが挙げられる。 これは路線バスやタクシー等の従来の公共交通機関を利用できない移動制約者に対して、個別的な輸送を提供する交通サービスである。 サービスの形態としては、ドア・ツー・ドア型、定時定路線型、公共施設等巡回型などがある。 いずれもリフト付き車両など利用者に配慮した車両を利用して行われている。 このSTSによって移動制約者が単独で公共交通機関を利用することが可能になる。 しかし事業者が民間の団体の場合には、運行による採算性の問題が出てくる。 そのため今後STSの更なる普及のためには、地方公共団体を中心とした関係者の連携が不可欠となってくる。

サービス面のバリアフリーについて他に考えられるものとしては、運賃等の割引制度の明確化や、ガイドマップの利用、混雑の緩和などが挙げられる。

運賃等の割引制度に関しては、現在でも一般利用者からの内部補助によって行われているがこれにも限界があるため、今後の財源をどうするかが検討される必要がある。 ガイドマップの利用に関しては、事業者間のマークの統一が図られ、利用者にとって分かりやすいものにする必要がある。

以上のようにサービス面のバリアフリーについていくつか見てきたが、施設面のバリアフリーと共に利用者にとって便利なものになるようにしなければならない。

4. 今後の課題

以上のように高齢者や障害者に対するバリアフリーについて見てきたが、今後十分なバリアフリーがなされるために必要とされることは何であろうか。

政策的な面から考えると、財源の確保や関係者間の連携が必要になってくる。 有効にバリアフリーがなされるようにしなければならない。

しかし社会が高齢者や障害者に配慮した公共交通システムを構築する方向に向かうためには、まず私たちがこういった人たちに対する配慮として助け合いの心を持って生活するようにならなければならない。 つまり、国民全体が障害者に対する偏見をなくしていくことが望まれる。 こうした動きの一環として高齢者や障害者の公共交通機関の利用を支援する交通ボランティア活動などが挙げられるが、こうした活動が積極的に行われるようになることが望まれる。

以上のことをまとめると、人々の高齢者や障害者に対する意識の向上が今後の公共交通システムのバリアフリーの充実のカギを握っているということになる。 私たちの日常生活レベルでの努力が求められている。


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