序論　合理化の趣旨

鉄道を利用したことのある人なら、自動改札やワンマン列車という形のサービスに触れたことがあるかもしれない。これらのサービスは「合理化」という名の下に人件費削減や機械化によるコスト削減・効率化を目標として導入されたものである。では、なぜ合理化が行われるのか？

合理化の趣旨とこれを行わなければならない状況について考えていくことにする。

1. 合理化とは

「合理化」という言葉を辞書で引くと「むだをなくし、能率的に目的を達成できるようにすること」（旺文社国語辞典［第八版］）と述べられている。無駄を排して能率的に行動することは、自由競争市場の中に置かれた企業にとっては自然な行動と言える。利潤を最大化しようとするのなら、おのずと無駄を除して費用を下げようとするであろう。

鉄道事業を行う企業も例外ではない。民間鉄道企業は他の業種の企業と同じく、利潤を得ることで存続・発展を図るものであるから、合理化の行動も自然にとられる。ただ、今回取り上げる鉄道事業における合理化は、単純に「むだをなくし、能率的に目的を達成できるようにする」合理化ととらえてよいかというと、そこにはいささか疑問が生じる。他の産業が行うように能率的な行動をとればよいというだけでは済まされない問題を含んでいるのである。

そこで、これからは一般的な意味での「合理化」を鉄道事業に当てはめるのではなく、その範疇を「鉄道事業における特徴的な合理化」に制限・定義した上で「合理化」を述べていきたい。

2. 合理化の趣旨

日本で最初に鉄道が走ったのは新橋－横浜間である。明治維新・文明開化の追い風に乗っている最中の1872（明治5）年のことだった。その後、鉄路は日本各地に張り巡らされ、重要な移動手段として発達を続けてきたが、戦後の高度経済成長に後押しされたモータリゼーションの波によって鉄道は輸送のシェアを年増に自動車に明け渡している。

ことに地方において自家用車の普及は顕著である。それに加えて沿線の過疎化や交通手段の多様化で、とくに中小私鉄の利用者離れが著しく、路線によっては経営状態の悪化から廃止に至るという状況下にあった。こうした中で事業継続のための諸政策が次々と導入されたが、合理化･省力化政策は鉄道の存続を図るための有効な手段となり、積極的な導入が図られた。

一方、都市の鉄道では利用客の大幅な減少はみられない。それにJRのような事業者では、都市部であげた利益を地方での路線運営に充てる内部補助が可能である。しかしながら都市は都市で混雑緩和投資や都市間輸送での航空との運賃競争を迫られているという昨今の状況を考えた場合、ここでも合理化政策の必要性が生じてくる。

鉄道は地域に根ざした産業と言われる。線路を敷いた範囲でしか輸送サービスを提供できない。すなわち消費の属地性という性質を持っており、利用客の獲得には限界がある。また製造業のように新商品を次から次に送り出して消費者の関心を惹くというように、新規路線を開拓して需要を喚起することも巨額な初期投資と採算を考えると容易なことではない。

大規模な投資をしてもなかなか売上に結びつかない。そこで、既存路線にかかる費用を下げようとする動きとして「合理化」が行われるのである。

3. 合理化の現状

一口に合理化といっても、大きく3つのタイプに分けることができる。 1つ目は人件費削減を目的とするものである。人件費は費用に大きく関係しているため、この人件費を抑えることが合理化に直接つながると考えられる。 2つ目は機械化による能率向上を目的とし、それにともなうコストダウンを目指すものである。そして3つ目が人を機械で置き換えるタイプの合理化であり、この形態が最も多く見られる。つまり先に2つ挙げた人件費削減と機械化は、時として表裏一体の関係を持つ。

●人件費削減タイプ

地方では昔からワンマン運転や駅員無配置（駅の無人化）で人員削減の合理化を図っているところが多い。そして最近では都市部でもワンマン運転を行う路線が登場してきている。新交通システムではさらに無人運転を行っているところもあるが、この段階になると機械化の存在も無視できない。

●機械化タイプ

最近の主流である消費電力を低く抑えた省エネルギー型車両。このような車両の開発も「環境にやさしい」というだけでなく、費用削減に結びつく合理化の例である。車両部品の共用化・簡略化なども製造コストやメンテナンスコストの引き下げに貢献している。

●人件費削減・機械化融合タイプ

代表的な例として自動改札がある。この自動改札には「人との触れ合いが無くなってしまった」という意見もある。しかし大都市では地方とは比較にならないほど大勢の客をさばかなければならないという状況を考えると、機械の導入のメリットは大きいと言える。

また、自動改札の設置によって新しいサービスを利用者に提供することも可能となった。その代表例がストアードフェアシステム（Stored Fare System）とよばれるもので、この機能を持ったプリペイドカードを利用者が事前に購入しておけば、切符を買わずにカードを直接自動改札機に通すことで自動的に運賃が引き落とされるというものである。さらに関西地区の「スルッとKANSAI」や関東地区の「パスネット」のように1枚で複数の事業者の路線を利用できるカードも存在し、利用者の便が増している。合理化がサービスの質の向上をもたらした例と言えるだろう。

自動改札の他に、自動券売機も人を機械で置き換えた典型的な例である。

運行管理システムにおいても、COSMOSやATOSといった高度にマルチメディア化されたシステムの開発によって、事業者側にメリットをもたらすのみならず、利用者にきめ細やかな情報を提供することが可能となった。

さらに究極的な合理化策として路線や列車の縮小・廃止がある。利用客がいなくても列車を走らせれば費用がかかるし、線路（土地）を所有していればそれだけで費用は発生する。採算に合わなければ縮小・廃止するのは企業の自然な行動だが、これは鉄道を社会資本という観点から見た場合、単に企業活動の論理だけでは済まされない問題がある。

合理化の具体例を次章に譲ることとして、以下、合理化の問題点を考えて行きたい。

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Last modified: 2001.4.7

一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)

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