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前述のように、営利事業としてのバス事業は非常に入退出が容易になり、それゆえに地方における通学の足としての、 公共交通機関としてのバス事業は存続がますます困難となることが予想される。 そこでこの章においては、自治体によるバス事業に対する金銭的のみではない、さまざまな補助手段について述べていきたいと思う。
自治体による補助の手段に関しては大きく分けて三種類のものがある。すなわち
である。 (1)は金銭のみの補助、(2)、(3)は実際に自治体が運営主体となり交通機関の確保を図るという形での補助である。
しかしながらこれらについて以前から知っているという人は少ないであろう。 さらに(2)、(3)の違いについては、ほとんど法律的な違いのみに近くなってきているので、知っている人は皆無であろう。 そこでまずこれらの違いについてから説明していきたいと思う。
最初に確認しておきたいことは、バス事業者が黒字を出すのはきわめて難しいということである。 次ページに掲載した図2-2-1(省略)を見ていただきたい。 全国の主要一般乗合バス事業者(保有車両数30台以上)の2001(平成13)年度におけるブロック(便宜的なものと思われる) 別の収支状況である。全事業者のうち4分の3が赤字事業者で占められているという現実がおわかりになるであろう。 更にいえば、ごく少数存在する黒字運営の事業者も都市部に多く集中していて、 限られた基幹路線により他の路線の収支を合い償うという構造が浮かび上がってくる。 これらの理由については、今回の研究の本筋ではないので触れるだけにさせていただくが、 コスト削減の困難さというのが特徴として挙げられるであろう。 これは乗合バスとして運行している限り、例えばスクールバスなどとは共通に使用することができない、 人件費を下げづらい、基本的に利用者が減少している、等の理由が挙げられる。
以上のような理由の中には一部、企業努力によって解決できる問題も存在するが、 基本的な赤字体質を抜け出すのは事実上不可能に近い場合が多い。 そこで、自治体による補助が必要となるわけである。
これは一言でいうと、公的資金の投入である。 基本的には国によるものと都道府県レベルの地方政府によるものの二本立てであるが、 地域によっては市町村レベルの補助が存在する場合もある。 また国の補助制度も2種類存在する。 ここではこれらに関してできるだけ簡潔に説明したいと思う。
国による直接の補助制度は「生活交通路線維持費補助」と「特別指定生活路線運行費補助」というものが存在する。 これらは「地方バス路線維持費補助制度」と銘打たれているが別に大都市において利用できないわけではない。
このうち前者の補助制度(以下「生活路線補助」と略す)は、都道府県レベルにおいて事業者側からの公的補助申請を検討する、 「地域協議会」という会で必要性を認められた「生活交通路線」に対して、都道府県を通じて行われるものである。 その中身は、路線維持費補助として、経常収支の赤字分に対して限度付きで都道府県の補助額の半額まで補填を行うものと、 車両購入費補助として、購入費の10パーセントを控除した額まで限度付きで都道府県の補助額の半額まで補填を行うものがある。 なお「生活交通路線」に関しては定義づけができており、それは「複数市町村にまたがり、キロ程が10km以上、 1日の輸送量が15人〜150人、1日の運行回数が3回以上、広域行政圏の中心都市等にアクセスする広域的・幹線的な路線」 (国土交通省のホームページより)というものである。
後者の補助制度(以下「特別路線補助」と略す)は平成12年度に新設された、新しい補助制度である。 これは都道府県が指定する「特別指定生活路線」に対して、都道府県を通じて行われるものである。 その中身は、路線運行費補助として、 補助対象費用と運送収益の差額に対して限度付きで都道府県の補助額の半額まで補填を行うものと、 車両購入費補助として、購入費の10パーセントを控除した額まで限度付きで都道府県の補助額の半額まで補填を行うものがある。 なお「特別指定生活路線」に関しても定義づけができており、それは「旧第2種又は第3種生活路線と他の路線(スクールバス、 廃止代替バス等)等との再編成により先駆的な取組と認められる路線」(国士交通省のホームページより)というものである。 ここにいう「旧第2種又は第3種生活路線」とは、 路線の平均乗車密度が15人未満であること以外は前述の「生活交通路線」と同じ定義である。
以上が国からの直接的な補助である。 この補助の体系から、バス会社の運営形態の変化をも含んだ合理化を推進しての補助であることが読み取れる。 これは従来、過疎化が進み人口が少なくなった地方においても、バス路線の運行免許の違い等からスクールバス、 通院バス、公営バスなど用途に応じて複数台のバスを無駄に保有していたからである。 これらの重複した設備を有効活用するためには、自治体が積極的に動いてこれらの免許を何らかの形で一本化する必要がある。 そこで、「特別路線補助」のような形の補助が作られたのである。
以下に挙げるのが道路運送法21条の条文である。すなわち、
「一般貸切旅客自動車運送事業者は、次の場合を除き、乗合旅客の運送をしてはならない。 一 災害の場合その他緊急を要するとき。 二 一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、国土交通人臣の許可を受けたとき。」
というものである。 この第2項は、一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合で、 国土交通大臣の許可を受ければ一般貸切旅客自動車運送事業者でも乗合旅客の運送をしてもよい、とも読める。
そこで、地方自治体では、一般乗合旅客自動車運送業者(要するに一般のバス会社のこと)が撤退したあとの代替交通機関として、 一般貸切旅客自動車運送業者のバスを借り切るという形をとって、乗合旅客の運送をしている。 この運行形態のバスを基となった法律に基づいて「21条バス」と呼んでいる。 この運行形態の最大のメリットは自治体が自前で、車両や人員を確保する必要がないというところである。 このことにより、バス事業のプロである運送業者に運送を任せることができ、 また、自治体は小さな設備を維持するという、規模の不経済から開放されることにより、コストの削減が可能になる。
この方式は後述の「80条バス」よりも新しい形式であるが、 こちらのほうが自治体と事業者の責任分担や運用の形態に対してフレキシビリティが多いため、近年の代替バスの主流になりつつある。
以下に挙げるのが道路運送法80条の条文である。すなわち、
「自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。 ただし、災害のため緊急を要するとき、 又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて国土交通大臣の許可を受けたときは、この限りでない。(以下略)」
というものである。 この条文自体はいわゆる「白タク」の禁止を規定しているものであるが、後半部分は公共の福祉のために、 国土交通大臣の許可を取れば、自家用自動車でも有償で運送を行ってよい、とも読める。
そこで地方自治体では一般のバス事業者が撤退したあとの代替交通機関として、 自治体所有のマイクロバス、スクールバス等を一般の乗合バスとして運行している。 この運行形態のバスを基となった法律に基づいて「80条バス」と呼んでいる。 この運行形態では基本的に自治体による直接の運行となるため、さまざまな工夫を行わない限りコストの削減が難しい。 しかしながら、バスの装飾などの部分に至るまで自治体の自由であるために、 工夫しだいでは相当に特徴的なバスを供用することができる。 ただ、現在では車両の保守管理などが重荷になって、一般のバス会社に車両を提供して運行を任せることや、 「21条バス」に転換するところも増えてきている。
前項においては、一般的な地方交通に対する補助について述べた。 しかしながら、世の中にはスクールバスに対する直接的な補助も存在する。 ここではそれに関する紹介を行っていきたい。
スクールバスそのものに対する国の補助としては、文部科学省の「へき地児童生徒援助」が存在する。 この制度の目的は「交通条件及び自然的、経済的、文化的諸条件に恵まれない山間地、離島等の地域において 市町村等が負担するスクールバス・ボート等購入費、寄宿舎居住費、遠距離通学費等について、国がその一部を補助することにより、 これらの負担を軽減し、へき地における義務教育の円滑な実施を図ることを目的とするものである。(以下略)」とされている。 援助を受けるための条件が、限られているために2000(平成12)年度の補助実績としては150台にとどまっている。 しかしながら、この制度は国が推進している全国的な市町村合併の中でその支援条項の中に組み込まれ、 2001(平成13)年度から市町村合併に伴う学校合併の際にも利用できるようになっている。
またスクールバスに直接的な補助をつけているのは国に限ったことではない。 地方政府においてもさまざまな取り組みがなされている。 例えば富山県小矢部市においては「小矢部市スクールバス停留所の建設等補助金の交付」という条例を定め、 スクールバスの停留所設置に関する補助金を出している。
以上のように補助制度自体は存在するが、近年財政問題により国による補助金の交付額が減少しつつある。 その際、地方自治体の補助金によりこれらの補助制度を維持することとなる。 しかしながら、これらの維持のためには政府、地方自治体、地域住民さらにはバス事業者等の理解および連携が必要不可欠である。 例えば、大部分の人間が自家用車を使用している中、一部の生徒、児童のためにわざわざバス路線を残せるか。 その際に利用しない人も含めて、これまで以上の負担ができるか。 このような問題は、その子供たちの家庭やバス事業者のみならず、地域全体における問題である。 この認識を地域全体で形成できるか、それがその地域において本当に必要な交通機関を提供する上での前提となるであろう。
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Last modified: 2003.2.4
一橋大学鉄道研究会 (tekken@ml.mercury.ne.jp)