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「性弱説」
廣部 史彦(Zクラス)

テレビをぼんやり見ていると、昨年アメリカを襲った大型ハリケーン「カテリーナ」から1年経ったとのこと。ニューオーリーンズで無人となった商店に大勢の人が略奪に走る映像を思い出す。「アーっ、アメリカでもこんなことが起こるんだ!」と鮮明な記憶がある。

民度の高い日本では地震が起きてもこの種の略奪は起こらないといつも思っていた。
しかし、略奪とは形の違う陰にこもった嫌な事件が後を絶たない。

岐阜県庁では、職員が旅費、食料費などの架空請求の手口で裏金を組織ぐるみで何億円もつくり、自分たちの飲食代などに充てていた。ある職員は、処分に困って燃やしたりゴミに混ぜて捨てたなどと言ったが、案の定ウソだった。人間の根性まで曲がっている。
大阪拘置所の看守が入所していた暴力団組長を監視カメラのない独房に移すほかの便宜を図った見返りに、家族旅行、車の譲り受けなどがあったとの報道。看守は3年前に自宅を新築し、3500万円のローンを抱え、金欲しさの犯行とのこと。
家庭用湯沸かし器で死亡事故が多発していたのに、必要な対応を素早く取らなかったため大問題になった会社など枚挙にいとまがない。

世話になったら、お返しをするという習慣がある。これが行き過ぎると「返報性のルールの罠」にはまる。「賄賂と見返り」になる。
看守は、見分不相応な自宅新築と3500万円のローンが金欲しさに繋がったとのことだが、それにしても万引きと同じで、見られていないだろう、他の人には気付かれないだろうというときには簡単に悪さをする。日本の美しい伝統である「恥の文化」の裏返しだ。通勤電車の中で化粧をする女性たちを見ていると恥の文化はもう消えてしまったのかと思うが、別の形でも生き残っていると思う。
「恥の文化」はまた「隠蔽」を生む。恥ずかしいと思うから隠す。定評が落ちるからと隠す。組織ぐるみでやることもある。

アメリカの略奪は、日本とは違う。普段貧乏している人達の行動はびっくりするほど素早い。チャンスと見るやすぐさま行動を起こし、店舗に入って欲しいものを運び出す。違法行為、道徳、倫理、恥などとは無縁のようで、むしろ底辺に生きる人達のたくましさを感じる。日本とは違う明るさがある。刑務所に100万人が入所している国だから、強盗や殺人、レイプなどと較べれば、略奪は軽いものと思うのだろうか。堂々としているところから、何かこんな時は、この程度のことは許されるんだという本人が納得する理屈があるのだろう。

人間の「性善説」と「性悪説」がある。今ではそのどちらでもない「性弱説」なるものが自分は正しいのではないかと思う。人間は本来弱いもの、欲しいものを手にいれたいと思うと、道を外し易い。特に見られていない、誰にも気付かれないだろうというときは誘惑に駆られることが多い。
国により犯罪の形は違っても、「性弱説」は普遍的なものかこれからも考えていきたい。

  (了)
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