以上のような説明を受けた後、いよいよ刑務所内に入る。バッチを付けた見学者を2つの班に分け、2列に並ぶ。女性はそれぞれの列の先頭に並んだ。先代の刑務所長の下では、女性の見学は刑務所内の秩序維持の上で認められていなかったそうであるが、今の府中刑務所長は女性の見学も認めている。
並んだ後、再び人数を確認され、庁舎の2階へ行った。2階には「中門」と呼ばれる通路があり、見学者も受刑者も例外なくここを通って刑務所内に入る。つまり、ここが一般社会と刑務所の境目にあたるのである。扉は鉄扉であり、通常は出入者控簿などに名前を記載し、厳重にチェックするようであるが、我々が学生だったせいか、背広姿だったせいか、そのようなチェックはなかった。この中門の脇には面会室が8部屋ほどあったが、非常に狭そうで古い部屋だった。2000人を越える刑務所にしてはやや少ない気もする。
中門では、刑務官の人が敬礼しつつ、バードウォッチングに使うカウンターを用いて我々の人数を数えていた。
全員が入ったのを確認して、案内をする刑務官の人が言う。
「ここからが、『刑務所』です」
入るとすぐ正面に真っ白な新しい建物がある。保安管理棟である。職員の方々はここで働いている。総務部、処遇部、教育部、医務部、分類審議室、国際対策室などが入っている。国際対策室では、栃木刑務所などとオンラインで結ばれ、栃木刑務所で対応し切れない言語を用いる外国人などは、通訳が揃っている府中刑務所と画面を通して対応するそうである。
ここ保安管理棟は新しいだけあって、非常にきれいである。刑務所という感じはない。府中刑務所では、1986年から10年計画で施設を全面改築しており、きれいになったとのことである。
次に、保安管理棟を出て、外国人房へ向かった。外国人房は文字通り外国人が収容される所である。まだ新しい建物らしく、廊下もきれいである。廊下には両端に白線が引いてあり、見学者はそこから出てはいけないことになっている。受刑者は作業中で、房にはいなかった。
部屋の広さは約4畳。やはり、狭い印象が強い。仕切り板は、辛うじて性器が隠れるくらいの高さであった。便器は正面を向いており、用を足すときは廊下側正面を向く。刑務所側の説明では、外国人は一般に用便中の他人からの攻撃を恐れ、正面を向いて用を足す、との指摘が刑務所設計段階であり、それに従ったとのことである。
窓には当然の事ながら、逃亡防止用に鉄格子があり、大きさも小さめである。位置は人の顔の高さよりもやや高め、といったところである。床はフローリングである。
扉には、刑務官が中を見られるように小さな窓が付いており、廊下から見て、扉の左下には食事や新聞。本などの差入れ口がある。
扉の廊下側右には、名前と日頃読む新聞が記載された札が貼ってあった。府中刑務所では、外国人のために人民日報と Japan Timesが用意してあるそうである。なお、先程の保安管理棟には図書館があり、約56000冊の蔵書がある。そのうち、20000冊が外国人用の図書であり、47か国語が揃っているそうである。差入、購入などによる私本の所持冊数には制限があり、10冊以内となっている。なるほど、居室の本棚には3、4冊の本が並んでいるところが多かった。
外国人房から出て歩いていると、15人ほどの受刑者が刑務官の指示を受けて整列されていた。どこかへ移動するらしい。軍隊のように、大きな声の号令を受けながら両手を大きく振って行進していくところであった。遠めに見たので、受刑者の様子はわからない。全員灰色の服・帽子を身に着けているのが見えた。
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