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写真 佐藤征男 |
カンツバキが2月を過ぎると、力が尽きたかのように花びらを落としていく。そして3月、キャンパスを彩るのはツバキである。ツバキに「椿」という字を用いるが、これは日本製の和字であり、漢字にはない。実は「ツバキ」という種名もない。正式には「ヤブツバキ」である。
ツバキは日本の花である。学名もカメリア・ジャポニカ。野生種としては、本州以南の暖地に自生するヤブツバキと、日本海側の多雪地帯にその分布が限られる変種のユキツバキがある。
雪を被ったツバキの花に一羽の鳥。早春の風景の極めつけである。なぜ、ツバキは早春の寒い時期に咲くのだろうか。ツバキは虫のいない季節にあって、鳥に花粉運搬を托している。花には鳥のメジロやヒヨドリが煩繁に訪れる。顔は花粉で黄色くなっている。さらに花に嘴を差し込んでいる。花には鳥を誘う蜜が充分用意されているのだろう。
ツバキの花の構造は鳥に照準を定めている。花と鳥とは持ちつ持たれつの共生関係が深まっている。雄しべや雌しべを鳥の体格に合わせて配置している。雄しべの基部は繋がり合って、花びらとしっかり合着している。鳥は虫よりずっと重い。だから花びらに鳥がとまっても、その体重で壊れぬようしっかりしている。メジロやヒヨドリは花の横側から蜜を吸う。ヒヨドリはときにホバリングしながら蜜を吸うこともある。だから、ツバキは横向きに咲く。鳥は匂いを嗅ぐ能力がないから、ツバキの花は香る必要はない。最大の重要なポイントは「赤」である。一般に鳥類が人と同じ赤い色を最も強く感受する。人間の大人も酒好きの人は「赤」提灯に惹きつけられる。ツバキの花は赤い。気まぐれな小鳥たちを惹きつける花の手練手管である。
受粉を終えた花は、雄しべと花びらが接いたままバサッと落ちる。落ち始めるとキャンパスはサクラが咲き始め、春の到来となる。
佐藤征男(記)
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