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玉原雑感−6月27,28日群馬県玉原高原のブナ林内研修に参加して

高場恭幸(昭43経)

昼過ぎ 上州の玉原(たんばら)高原に着くと 休むまもなく急いで着替えて植樹作業現場へ向かいました。 一行は NPO(註1)メンバー10数人と一橋植樹会 (国持、中居、鈴木(徹)、湯川、大坂、岸田、高場の7名と福嶋顧問。)ほかで計25名。
     (註1) 福嶋顧問が理事長をされているNPO法人「玉原高原の自然を守り育てる会」

重さ約3キロのポット苗 (ブナ、栃,カエデの苗) 入りポリ袋を両手に持つ者、鍬やスコップなど道具を持つ男女が1列になり ブナ・栃・朴の混交林の中の山道を30〜40分かけて登りました。汗が噴出してきたころ勇躍 「空が見える位に樹間の開いた笹(チシマザサ)原に到着、ここが植樹作業現場でした。 4〜8年生のポット入りブナの苗木50本弱をこの笹原に植えつけるという作業、これが今回の研修の主目的のひとつです。

ポット苗

鎌や剪定鋏で丈2メートルの笹を根元から刈り取り半径1メートル余の空間を作り 鍬で根を切り、スコップを使い穴を掘る、用意したビニールシートで掘り返した土の散逸を防ぎ、苗の植え付けと同時に埋め戻す。こうして7メートル間隔で3苗づつ植えます。「しっかり根をはれ、早く育て,雪にも,兎にもまけず育てよ」と 呟きつつ穴に土を戻し植えつける作業の繰り返しに 梅雨間の好天という強い陽ざしのもと 大量の汗が滴り落ちたものです。

植え付け部隊は残りの苗を植えつけるためさらに場所を移動し そのあとに女性部隊が苗木毎に採番し台帳・記録紙に位置と番号を記入 というように全体の作業が流れるように続き 汗もさらに流れます。ここの植樹作業はきわめて科学的に分析、研究され、且つ経験・体験を加味し計算された緻密・地道・丁寧な作業だったのではないでしょうか。

帰路は荷物は少なく手は空いており ゆったりと豊かなブナ林を味わいながらの下山となりました。ブナを主体とする広葉樹林は針葉樹林と違ったなんともいえない柔らかな佇まいが素晴らしく 木漏れ陽とのハーモニーもあわせ 穏やかに心和ませる何かが他の樹木より以上にあるようで それらが幾多の人を魅するのでしょう。

その夜は 福島先生、飯野氏と同行の農工大の学生さんの説明、DVDを駆使し大きな画面に投影しながらの「玉原のブナ林研究」の状況の説明を受けました。

夜の坐学

この坐学中で特に耳に残ったものは、

  1. 「自然の植生管理」とは いくつかの特色ある、特定した区域でのブナの育ち方、日照の受ける量による生育の違い、その成長速度を地道にひたすら観察、記録し図面にプロットし分析しつつ見守っていくこと。
  2. 「人手の補助による植生管理」とは戦後に乱伐されたブナの林の回復速度を上げる手助け=植樹=をして 放置すれば一定の状態へ再生するまで100年かかるところを50年いや20年で復元軌道に乗って欲しいとの願いをこめての植付作業をともなうもの。

この二通りの手法で玉原の自然を守り育てようとして来ていることですが、その他にも幾つかありました。

この地域(ブナ林と湿原)では1990/91年に初回 その後1999/2000年に第2回目と大調査を実施、おおよそ20年に亘り息長く緻密な調査を継続的にしながら管理されています。

林内を区域区分し、個体数・個体別成長速度・日照量,受光量などの観察、土壌・地形などによる差異の把握などは まさに汗と科学の積み重ねで、科学的な姿勢が印象的でした。

ブナの特質として、人の背丈となるまで概ね20年と成長が遅いのには吃驚でした。 平均寿命は200年(胸高直系3メートル)、中・下層植生のアオダモ、テツカエデ、高層の朴、栃と上手に共存しつつ 最終的にブナが極相となるそうです。

笹が多過ぎても、少な過ぎても上手く苗木が育たず、笹との競合の凄絶さと共生の巧みさに驚かされました。

こうした説明を受けていると 生きている森を科学するということ、植生管理学の奥行き、そこに継続的に汗を流し打ち込む人々の熱意や心意気などが感じとれるようで 感慨深いものがありました。

 “おのがじし光ふくみてそよぎゐる 橡若葉なり山毛(ブナ)欅若葉なり 若山牧水”

翌日 午前中は二班(A班、次回植樹のための「ポットブナ苗つくり」班と B班、T氏の案内による「平均樹齢100年程度のブナや栃の巨樹など多数ある林内植生探索散歩」班)に別れての行動となりました。 午後は全員で玉原湿原を散策しました。 こちらも20年かけて調査・分析しつつ 豊富な湧き水の流れる方向と量を適度に管理しつつの湿原植生の再生・維持管理をしているところで、丁寧に敷かれた木道の上をのんびり歩きながら福嶋先生から湿原の説明を受けるという贅沢な研修です。「水量により ヨシをはじめいろんな植生が変容していく」という説明を聞いている時 ふと先年訪れた釧路湿原の急速な変容を思い出したものです。

(*2) T氏はNPOメンバーの常宿のオーナーで博物学の大家

「豊かな自然」「原風景」とはどういうことか、どうすればそれらと人間が共生していけるのかをあらためて考える機会をいただいたというのがこの研修会終了時の実感です。

以上
 

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