団塊の世代の魁として高度経済成長の日本の産業界の中心で会社勤務を全うし、50歳を過ぎ一つの山を越えてから、心に秘めてきたもう一つの山―大学の分野に転進。人生の節目に、四国八十八札所全行程1500kmを延べ44日間で完全に歩き通して、その紀行を漢詩で綴った昭和43年同期生のユニークな著作が、ある新聞に1年間連載され、その連載終了とともに、来る11月1日、単行本として北信ローカル社より定価1500円(外税)で発売される。
(ISBN:4-9903302-0-X、C0026、\1500E)

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定年という大きな人生の壁に立ち向かっている団塊の世代の生き方が問われている現在、「人生二山」を実践するこれ等異色の生き方が最近世の注目を集めている。
12月2日(土)、東京大学駒場大学会館に、序文執筆の杉山武彦一橋大学学長、漢詩連盟の鬼澤霞会長、中曽根弘文参議院議員〈元文部大臣〉等が出席して、出版記念パーテイーも開催予定で、一ツ橋大昭和43年同期会のメンバーの出席も期待されている。
「人生80年の長寿の時代」、仕事一筋も結構ですが、これからは「新しい山」も十分に楽しんでゆきたいものです。
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序 文 (三)
一橋大学 学長 杉山 武彦
本著者の堀内秀雄氏と私は、同じ大学を同じ期に卒業している。在学当時は学年全体でも六百人という少人数の大学だけに顔を合わせ面識はあるものの、名前と顔が一致する程ではなかった。初めて親しく言葉を交わしたのは、前々回の同期会で彼が幹事として、当時学部長の私に挨拶依頼をする場でのことであった。その私が彼の紀行文に序を寄せるのは、これまた新しい「出会い」ということなのであろうか。
専門外の漢詩紀行文には全く知見の無い私は適切な序文を書く自信がなく大いに躊躇した。しかし、彼から受け取った全六三回にわたる新聞連載の紀行文を読んで、その記述の隅々にまで滲み出る誠実さと謙虚さ、その道における多年の研鑽を映し出す格調の高い漢詩の数々、そして随所に現れるビジネス体験と学究に裏付けられた着眼、分析や寸評にすっかり魅了され、ぜひとも賛辞を述べたいとさへ思うに至ったのだった。
紀行文を読み終え湧き上がった私の気持ちを一言で表現すれば、それは彼に対する敬服の念と言うものに尽きる。彼はなんと素晴らしい体験をしたのだろう。この歩き遍路を通じて、彼は人間的に何倍も大きくなったのに違いない。その飛躍が得られる場を、彼は自から設定し、自らが課した目標に向けて、ひたむきに努力した。日々の文章からは、黙々と歩き続けては物事について自問自答し、出会った多くの人々と言葉を交わしては真理に気付き、その中で自分を戒め、自分を励まし続けた様子が生々しく伝わってくる。
さらにまた、巡礼の心と行いを彼は何と見事な文学形式に書き表したことであろう。日々の「足どり」、「思索」と「発見」を振り返りつつ淡々と記した文章と、心境を研ぎ澄まし推敲を重ねて出来上がったであろう漢詩とが、それぞれに薫り互いに響き合っている。私も多少読み齧っている俳句と漢詩の違いはあるが、私にはあの芭蕉の俳文を読むかの如き心地よさを感じさせた。
彼にとっての歩き遍路は、最も大切な人への祈りとこれまでお世話になった懐かしい人々に対する鎮魂の企てであったとのことなのだから、この遍路紀行の上梓によって、彼は立派なレクイエムの献上を果たしたこととなる。
一区切りをつけたこの畏友の、更に明日に向かっての新しい人生への出発をここに祝したい。
平成十七年十一月 |