■現在位置:トップページトピックス&リリース
クラス・同好会だより
←前へ 出版・論文・投稿 次へ→
「国立劇場創立40周年興行『元禄忠臣蔵』観劇の記」
森口昭治(経済学部Tクラス)


10月第一部(花)、11月第二部(月)、そして12月第三部(雪)と、何故か年配の男性歌舞伎フアンもめっきり増えた『三宅坂』(メトロ半蔵門駅から徒歩4分)に毎月通って、3部作を通して観劇しました。
国立劇場の有難いのは、高島屋(左団次)が『筋書き』にコメントしていますが、何と言っても3階3等席が@1500円と言う安さにあります。もっとも本興行は大入りの人気で、週日でも3階席の取れないケースもありましたが?

ご丁寧に、第三部は16日(土、午後)にNHKBSの完全中継でも繰返して鑑賞しました。テレビでの鑑賞も又格別なものがありました。歌舞伎評論家になった?山川静夫元NHKアナに拠る泉岳寺からの中継解説、九代目(幸四郎)との楽屋インタビュー等は、劇場観劇では味わえない興味津々の内容でした。

吉衛門(播磨屋)、藤十郎(山城屋)、幸四郎(高麗屋)の3人の内蔵助は、夫々が得意技を発揮出来る分担リレーで、『雪月花』各様の表現を出し切った感銘の演技でした。各部の助演役者、例えば一部の富十郎(井関徳兵衛)、二部の梅玉(綱豊卿)、三部の三津五郎(伯鰭守)も全て秀逸でした。脇役陣では、萬屋一門(時蔵、信二郎、歌六、梅枝等)の働き振りが印象的でした。真山青果(作者)の巧みに仕掛けられた『台詞劇』(新歌舞伎)に酔いしれた、至福の3ケ月間でした。

そう言えば、小職が歌舞伎好きになったのも、やはり解り易い新歌舞伎(明治以降の新劇の影響を受けた台詞中心の物語風の作品が多い)からでした。新歌舞伎は、歌舞音曲を排し台詞のみの演劇性の強い、それこそギリシャ悲劇やシェクスピア劇と同様の世界です。通常、新歌舞伎は思想があり理屈っぽいのですが、真山青果の作品は、テンポよく、リズムがあり、客を飽きさせない物語を盛り込み、実に巧妙に仕組まれています。作者は違いますが、まだ少年のころに母に連れられて京都南座顔見世興行で見た『頼朝の死』と言う作品での故市川寿海(頼家役)の台詞回しは未だに耳に残ります。
来春早々、歌舞伎座正月興行(勧進帳等)にも友人達ご夫妻で行く予定ですが、1000回公演を超える九代目(高麗屋)の弁慶もさることながら、今回の綱豊卿の演技ですっかり魅せられた梅玉(高砂屋)の富樫振りが今から楽しみです。

12月14日は討入の日であると同時に母の命日でもあります。
南部坂雪の別れや吉良邸討入の場面の雪降りを表現する歌舞伎独特の舞台演出の大太鼓(下座)の擦り音の『づん・づん・づん・づん・づん・・・・・・・』と言う微かで、静かな響きが、何故か心臓病が持病だった亡き母の最後の一日の『心臓の鼓動』に聞こえて来るのも不思議です。
そう言えば、青果はこの作品を実は、一番人気ある『大石最後の一日』(最終章)から発表したと言われます。

そこで、40周年記念興行観劇の感激の思い出を残す『忠臣蔵』三題:

 討入りを 初一念と描くは 『青果』なり 
  
 忠臣と 母とを偲ぶ 雪の音 
 
 年の瀬や 三人『大石』 三宅坂
  
(作者;真山青果の忠臣蔵のテーマが、今は失われつつある、日本人が最も尊ぶ品格、『初一念』を貫くことであると言う主張に強い共感を覚えて)
 
<小喜楽>

  (了)
© 2008 S43
如水会昭和43年会 一橋大学ホームページ 如水会ホームページ