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クラス・同好会だより
兼松講堂の響き
宮城敬雄(P組)

この文章如水会報3月号「橋畔随想」の記事をご本人の了承を得て編集したものです。
9月にコンサートが予定されていますので詳細決まり次第改めてご案内します。
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 黄金色の銀杏が色鮮やかな快晴のキャンパス。昨年十一月二十七日の午後、兼松講堂でミュンヘン交響楽団のコンサートが行われた。私は学生時代、一橋大学管弦楽団でオーボエ奏者を務めていたが、現在は小さな会社を経営するかたわら、好きな音楽が高じて五十歳から指揮を習い始め、今までヨーロッパを中心に十八回のコンサートの指揮台に立ってきた。今回、日本では三年振りに東京(兼松講堂)と大阪(ザ・シンフォニーホール)でミュンヘン交響楽団と共演することができた。
 十五時開演。満席の温かい拍手で迎えられて、この演奏会のためにイギリスで特注した指揮台に上がる。形状はウィーンの楽友協会大ホールにあるものと同じデザインである。指揮台の転倒防止用のバーは曲線の加工がとても難しく、自分で言うのも何だがイギリスでも二度作りかえてもらった逸品だ。この指揮台が伝統ある兼松講堂にふさわしいものとして温かく迎えられることを願いつつタクトを下ろした。
ホールの良し悪しはややもすると聴衆(客席)の側での残響の長さで評価されがちであるが、私の経験ではウィーンの楽友協会大ホールが演奏者、指揮者にとって、もっとも演奏しやすいホールである。演奏者や指揮者の側からすれば、お互いに他のパートの楽器の音がよく聴こえることが極めて重要である。その点で兼松講堂もとても演奏し易い良いホールである。ミュンヘン交響楽団は今回のツアーで、東京オペラシティ、所沢市民文化センター、ザ・シンフォニーホールなど響きが良いと言われているホールを含め、全国で十回のコンサートを行った。ツアー終了後、兼松講堂の響きについてプレーヤーに尋ねると、口をそろえて横浜みなとみらいホールに次いで二番目に良かったとのこと。ヨーロッパの伝統あるホールは石と無垢の木で造られており、自然に共鳴する心地よい響きと残響音がある。日本の現代のホール建築は、建築基準法と消防法の規制がかかり、楽器から発する音波を受け入れ難い材質のハコである。兼松講堂の様な古い建物は、そうした非音楽的なハコではないことが本当に貴重であり、我が国では古い教会等を除いて大オーケストラの演奏会ができる唯一のコンサートホールといえよう。私たちは、一橋大学がこんな素晴らしい稀なホールを、しかも緑豊かな自然環境に恵まれた所に持っていることにもっともっと心を寄せてもいいのではないだろうか。
 ブラームスの交響曲第一番を終え、温かい拍手に応えてアンコールを3曲。最後に聴衆とオーケストラが一体となって「赤とんぼ」を演奏し、晩秋の夕闇に満月の光が煌々と講堂を照らす中、コンサートは無事終えることができた。多くの諸先輩や一橋大学管弦楽団の学生諸君の暖かい支えに厚くお礼申し上げたい。

(了)
© 2008 S43
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