第三編 上訴

 第一章 通則
一 被告人の法定代理人又は保佐人の上訴権(三五三、三五九)
 現行法においては、被告人の法定代理人又は保佐人の上訴権を被告人の意思如何を問わない独立上訴権として規定しているが、本案においては、これを被告人の明示した意思に反することのできない被告人のためにする上訴権に改めるとともに、被告人は、法定代理人又は保佐人の同意を得なくても上訴の取下ができることに改めた。これは、要するに刑事訴訟の上訴においては、被告人の意思を第一と考え、法定代理人又は保佐人の誤つた措置によつて、被告人がその意思に反して不利益を受けることを避けようとする趣旨に基くのである。
二 上訴権抛棄の廢止
 判決言渡期日には、軽微な事件を除き、必ず被告人の出頭を要することとしたのは、特に被告人の上訴権を保護する趣旨に出ているが、更にこの思想を徹底し、上訴権は抛棄を許さない権利とするのが、被告人を保護する所以であるとして、上訴権抛棄という制度を廃止した。なお、後に説明する如く控訴及び上告の提起期間を十四日としたので、上訴の提起期間中の未決勾留の日数は、上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部これを本刑に通算することとした(四九五)。
三 上訴制度
 控訴及び上告は、現行制度を改め、控訴審はこれを原判決の当否を審査する所謂事後審とし、上告審は、原則として、憲法違反、又は判例違反のみを審査する審級とした。これは、第一審において極めて徹底した直接審理主義、公判中心主義を採用し、第一審にすべての攻撃及び防禦の資料を集中し、丁重にその審理をすることとしたので、控訴審を現行法通り覆審とする必要が認められないからである。
 右に伴い審級制度もこれを改め、地方裁判所又は簡易裁判所の第一審の判決に対する控訴は、すべて高等裁判所がこれを管轄するものとし、これに関する裁判所法の改正法律案は、引続き國会に提出する。

第二章 控訴
 改正控訴審の要点は、次の諸点である。
 (一)控訴の提起期間を十四日とした(三七三)。
 (二)控訴の申立の理由は、次の通りである(三八四)。
  (イ)訴訟手続の法令違反。絶対的控訴申立の理由となる場合以外は、判決に影響を及ぼす場合に限り控訴申立の理由となる。
  (ロ)判決に影響を及ぼす法令の適用の誤
  (ハ)刑の量定の不当
  (ニ)判決に影響を及ぼす事実の誤認
  (ホ)再審の事由
  (ヘ)判決があつた後の刑の廃止若しくは変更又は大赦
 (三)裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を差し出さなければならない(三七六)。
 (四)控訴趣意書は本案及び裁判所の規則で定める方式に從わなければならない(三七七−三八三)。
 (五)左の場合には、決定で控訴を棄却する(三八五、三八六)。
  (イ)控訴の申立が法令上の方式に違反したとき。
  (ロ)控訴の申立が控訴権の消滅後にされたとき。
  (ハ)期間内に控訴趣意書を差し出さないとき。
  (ニ)控訴趣意書に法律によつて認められた控訴申立の理由が記載されていないとき。
  (ホ)控訴趣意書が法令上の方式に違反しているとき。
 (六)附帯控訴を廃止した。
 (七)被告人のためにする弁論は、弁護人でなければこれをすることができず、被告人は必ずしも公判期日に出頭を要しない(三八八、三九〇)
 (八)控訴裁判所は、義務として控訴趣意書に包含された事項を調査しなければならないが、更に職権で控訴趣意書に包含されない事項をも調査することができる(三九二)。
 (九)控訴裁判所は、原判決を破棄するかどうかを決するのに必要な限度において、事実の取調をすることができる(三九三)。
 (十)原判決を破棄したときは、原則として差戻又は移送をするが、直ちに判決することもできる(三九八−四〇〇)。

 第三章 上告
 改正上告審の要点は、次の諸点である。
 (一)上告の提起期間を十四日とした。
 (二)上告の申立の理由は、憲法違反又は判例違反に限る(四〇五)。
 (三)憲法違反又は判例違反がない場合でも、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件を裁判所の規則の定めるところにより、自ら上告審として受理することができる(四〇六)。かくして受理した事件は、通常の上告事件と変りがない。
 (四)跳躍上告を廃止した。
 (五)附帯上告を廃止した。
 (六)上告審においては、被告人を召喚することを要しない(四〇九)。
 (七)憲法違反又は判例違反のない場合でも法令違反、重大な事実の誤認等があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、原判決を破棄することができる(四一一)。
 (八)原判決を破棄したときは、原則として、差戻又は移送をするが、直ちに判決することもできる(四一二、四一三)。
 (九)上告裁判所の判決については、訂正判決の制度を認めた(四一五−四一八)。

 第四章 抗告
 第四章抗告については、概ね現行法と変りないが、ただ、特別抗告の理由を應急措置法よりも廣め、憲法違反のみならず、判例違反もその理由に加えた(四三三)。

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